魔法より、君に恋をする。
 同じ頃。

 学院地下。

 ルシアンは一人、古い記録庫にいた。

 机の上には十三本の線を写した紙。

 その隣には、さらに古い一枚の術式図。

 普段なら決して持ち出さないものだった。

「十二は収束」

 指で線をなぞる。

「十三は……離脱?」

 違う。

 もう一枚。

 重ねる。

「分離」

 ルシアンの指が止まった。

 中央に集められたものを。

 外へ。

 独立させる。

「……まさか」

 胸の奥が冷える。

 もし。

 十三本目が、追加ではないのなら。

 十二回の繰り返しの先に生まれた、余分な一回ではなく。

 これまで一つとして扱われていたものが。

 初めて。

 別のものとして成立した印なら。

『お前じゃない』

 あの声の意味が変わる。

「リリア」

 ルシアンは小さく呟いた。

 いや。

 その名前さえ。

 本当に彼女自身のものなのだろうか。

 記録棚の最奥。

 封印された一冊へ目を向ける。

 それを開けば。

 おそらく、答えに近づく。

 けれど。

 ルシアンはすぐには手を伸ばさなかった。

『君が今日まで生きてきた時間が偽物になるわけじゃない』

 自分で言った言葉を思い出す。

「……そうだ」

 答えが何であっても。

 今いる彼女を消してはいけない。

 過去の誰かへ戻すために。

 今の彼女を否定してはいけない。

 ルシアンはようやく封印へ手を伸ばした。

「今度は、間違えない」

 指先から魔力が流れる。

 封印が。

 一つ。

 また一つ。

 静かに解けていく。

 そして古い本の表紙に。

 見覚えのない文字が浮かび上がった。

《第一個体――リリア》

 ルシアンの紫の瞳が、大きく見開かれた。

「……第一?」

 なら。

 今の彼女は。

 何番目なのか。

 それとも。

 そもそも。

 数えるべき存在ではないのか。

 最後の封印が、音もなく解けた。
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