魔法より、君に恋をする。
「廊下で新入生を囲むのは感心しないな」

 最後に現れたのは。

 眼鏡をかけた三年生だった。

 黒紫色の髪。

 紫色の瞳。

 生徒会長章。

「ノクス先輩」

 リリアが名前を呼ぶ。

 ルシアン・ノクス。

 彼も有名だ。

「僕を知っているんだね」

「生徒会長ですから」

「それは光栄だ」

 穏やかな微笑み。

 そして。

 紫の瞳が。

 リリアを見る。

 止まる。

「……」

「?」

「いや」

 微笑む。

「ようこそ、アルカディアへ」

 それだけ。

 なのに。

 なぜか。

 ずっと前から。

 自分がここへ来ることを知っていた人のような言い方だった。

気づけば。

 一年生三人。

 二年生二人。

 三年生二人。

 妙な集団が出来上がっていた。

 しかも。

 周囲から。

 ものすごく見られている。

「……ねえ」

 リリアがセシルへ小声で尋ねる。

「何?」

「なんでこんなに見られてるの?」

「本気で言ってる?」

「うん」

 セシルは周囲を見る。

 学院で有名な第二王子。

 問題児だが人気の高いアレン。

 三年首席カイル。

 生徒会長ルシアン。

 女子人気の高いノア。

 そして。

 今年の首席で、入学前から美少女と噂になっていたリリア。

 ついでに自分。

「……まあ」

 セシルは少し考え。

「目立つんじゃない?」

「誰が?」

「全員だよ」

 リリアは納得していない。

 その顔を見て。

 セシルが笑った。

「行こう、リリア」

「どこに?」

「食堂」

「あ」

「忘れてたのか?」

「ちょっと」

「ほら」

 セシルが自然に手を差し出す。

「迷子になるから」

「子供じゃない」

「じゃあ一人で行く?」

「……手、借りる」

 リリアがその手を取る。

 セシルが笑った。

 それを。

 五人が。

 それぞれ違う表情で見ていた。

「?」

 リリアだけが。

 その意味を知らない。

 入学初日。

 魔晶石を一つ壊した。

 友達が二人できた。

 妙な先輩に四人も会った。

 それだけでも。

 十分すぎるほど濃い一日だった。

 だから。

 この時はまだ。

 気づかなかった。

 どうして彼らが。

 時折。

 初対面の人間を見る目をしていないのか。

 どうして。

 自分の名前を呼ぶ声だけが。

 こんなにも。

 懐かしそうなのか。

 春のアルカディア。

 リリア・アステルの学院生活は。

 少し奇妙な出会いとともに。

 静かに。

 幕を開けた。

     
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