【秘密の溺愛シリーズ】 紳士な社長の秘密を知ったら、独占欲強火の愛で娶られました
「私、帰ります」

 きびすを返した。

「じゃあこれはいいんだな」

 振り返って「あっ!」と声が出た。社長の手には私のスマホがある。連れて来られた場所に気を取られすぎて、人質ならぬモノジチを取られているのを忘れていた。

 スマホくらいひと晩なくたって困らないわよ……。

 仕事用のものは会社から支給されている。私物の携帯電話がなくても業務には支障がない。グッとこぶしを握る。

「別に構いません!」

 再び社長に背を向けようとしたとき、社長の手の中からブブブッと振動音が聞こえた。こちらに向けてある画面が光っていて、表示された文字がよく見える。

「おっ、お父さん!」

 思わず口にしたら、社長がスマホを自分の方に向ける。目と口を弓なりに細めた。とてつもなく悪い笑みに、ゾクッと背中に悪寒が走る。社長がスマホの画面に触れた。

「はい」

 画面を耳に当てた社長に、私は息をのんだ。

「珠希さんのお父様ですか? 初めまして、HFI代表取締役社長の高遠と申します」

 社長が電話に出ちゃった!

「いえ……そうではなく。珠希さんが私のところにスマホを忘れて帰られまして」

 サーっと血の気が引いた。

 それじゃあまるで、さっき父と電話したときには社長の家にいたみたいじゃない!
 親密な関係だと勘違いされたらどうするの!

 頭が真っ白になった私をよそに、社長は平然とした顔で父との会話を続けていく。

「……はい、もちろんそのつもりです。ええ……こちらこそよろしくお願いいたします」

 父と短いやり取りした後、社長はそう言って通話を終えた。
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