【秘密の溺愛シリーズ】 紳士な社長の秘密を知ったら、独占欲強火の愛で娶られました
 無理やり深呼吸して、足に力を入れる。

「助けていただきありがとうございました」

 私がひとりで立てるのを確認したのか、社長もゆっくりと離れた。

「よかったらどうぞ」

「え……?」

 大きな手のひらが仰向けに差し出されている。

 まるで物語に出てくる王子様のような所作に、私はまぶたをしばたたいた。

 もしかして手をここに乗せろって……?

「いっ、いえ! 大丈夫です自分で歩けますっ」

 全力で両手と顔を左右に振ったら、くすっと笑われる。

「ならよかった。本当に気をつけてくださいね、水鳥川さん」

「あ……」

 まさか顔と名前を把握されているとは思わなかった。自社の社員だとばれていたなんて恥ずかしすぎる。

「はい……」と消え入りそうな声で返したら、高遠社長はにこりと微笑んでから階段を上っていった。ビルの入り口で清掃スタッフの名前を呼び、挨拶しているのが聞こえてくる。社長がビル管理スタッフの名前まで把握しているという噂は、どうやら真実のようだ。

 スラリとした後姿がビルの中に消える。無意識に詰めていた息を吐いた。周囲をキョロキョロと見回したが、朝早かったおかげで見知った顔はない。

 よかった……誰にも見られていないみたい。

『社長と抱き合っていた』なんて変な噂を立てられたらたまらない。
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