鉄仮面救急医は、再会した身代わりママを猛愛包囲で逃がさない【秘密の溺愛シリーズ】
今、目の前にその彼がいる。
あんなときでもハッとするほどの美形だったけれど、六年経った今、成熟した大人の色気まで増備されている。
ただ、表情に動きがない。目も眉も唇もずっと同じ形を保っている。なまじ容姿が整っているだけに、怖く感じる人もいるのもわかる。瑠奈が言っていた『鉄仮面』というあだ名の由来はこれだろうと思った。
あれこれ考えていたら、彼の視線がこちらに向いた。目が合ってドキッとする。不躾に見すぎていたと、慌てて視線を逸らした。
「夫は仕事で来られず申し訳ございません。母の私が代理を務めさせていただきますわ」
そう言って軽く頭を下げた黛夫人は落ち着いた貫録を持った方だ。薄鼠の訪問着に黒髪をシニヨンにまとめている。
細面に眉や鼻などのパーツも全体的にほっそりとしており、切れ長の奥二重まぶたは息子である彼とよく似ている。体も顔つきも丸々ふっくらとしている私の伯父とは対照的だ。
夫人の仕切りで軽い自己紹介をした後、運ばれてきた食事に手を付けた。繊細に盛り付けられた日本料理のコースはどれも間違いなくおいしそうなのに、今の私にはなにを食べているのかわからないほどまったく味がしない。頭の中はずっと、どうやったら断ってもらえるかとばかり考えている。
しかも私が羽野の養子だとは明かせない。黛会に入れてもらえなければ羽野医院は生き残れない。相手を怒らせてしまっては元も子もないのだ。
どうしたらいいの……。
目の前に置かれた海老真丈のお椀をじっと見つめる。
「紗雪さん」
「はっ、はい」
突然夫人に呼びかけられ、慌てて顔を上げた。