鉄仮面救急医は、再会した身代わりママを猛愛包囲で逃がさない【秘密の溺愛シリーズ】
縁側の端から庭に下りた途端、乾いた秋風が首すじを通り抜けていった。部屋の熱気と緊張でほてった頬に気持ちがいい。
料亭の立派な日本庭園となっており、中央には池がある。池のほとりに立つモミジは色づきかけで、まだ緑の葉も多い。高く澄んだ空には、真っ白な鰯雲が心地よさげに浮かんでいる。
青と白、そして緑から赤へのグラデーション。それらすべてが池の水面に映り込んでいる。
「きれい……」
見惚れていると、黛さんが先に歩き出した。遅れを取らないよう続く。
敷石の敷かれた小路は、池の周りをぐるりと一周できるようになっているようだ。黙々と進んでいく黛さんの後ろを、私も黙ってついて歩く。
最初に鴨居をくぐって入って来たのを見て、背の高い人だなあとは思ったけれど、こうして真後ろを歩かれるとその大きさをより実感する。百五十八センチの私より三十センチほど高いかもしれない。
六年前に助けてもらったドクターとこんな場所で再会するなんて……。
神様のいたずらではないかと思ってしまう。
「どうした」
声を掛けられてハッとした。彼が数メートルほど先でこちらを見ている。思考に入り込んでいるうちに歩みが遅くなっていたようだ。
「すみませんっ」
急いで彼のもとへ向かおうとした拍子に、草履のつま先が敷石の端に引っかかった。
「きゃっ」
転んじゃう!
視界が傾くのがスローモーションに見える。
だめっ、母の着物が汚れちゃう!
せめて地面に手を突こう伸ばしたとき、目の前にサッと大きな手が現れた。反射的に両手で強く握りしめる。
「大丈夫か」
低い声にハッと我に返った。
「ごめんなさい!」
彼の手を慌てて放した。手首から親指の根元にかけて赤くなっている。とっさにかなりの力で握ってしまったようだ。