鉄仮面救急医は、再会した身代わりママを猛愛包囲で逃がさない【秘密の溺愛シリーズ】
 そうして日が暮れる頃に、ようやく今の住まいである女子寮の自室に戻れた。

 羽野医院に就職したのをきっかけに、私は羽野家を出て病院の女子寮に入った。夜勤のある看護師や医師のために作られたもので、築年数はかなり古い。そのせいか病院まで歩いて五分のところにある割に不人気で、入居者は少ない。おかげで私もすんなりと入れた。

 六畳ほどの部屋で疲労感にぐったりする。

 大役は果たせたわよ……ね?

 彼は一度も笑顔を見せなかったし、私もできるだけ無愛想にふるまった。会話もまったくと言っていいほど弾んでいない。途中転びかけて間抜けな姿にはあきれていただろう。

 私にできることは十分にやったはずだ。二年後を待たずとも、早々にお断りの連絡が入るに違いない。

 せめて最後に六年前のお礼を言いたかったな……。

 冷たいアスファルトの上で『大丈夫だ』と頭を撫でてくれた感触を今も覚えている。

 両手を開いて、思いがけず七年越しに触れたあの手を思い浮かべる。

 私が偽者じゃなかったら、あのときのお礼を言えたのにな……。

 衣文掛(えもんか)けに掛けた母の振袖を見上げ、胸の内で彼に謝罪する。

 その夜は泥のように眠った。
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