鉄仮面救急医は、再会した身代わりママを猛愛包囲で逃がさない【秘密の溺愛シリーズ】
 彼の車は山の中腹あたりで県道を逸れ、なにかの敷地へと入っていった。

「ここって……」

 山林の中に静かにたたずむモダンな建物。入り口に【La lune】と書かれている。

 なんて読むのかしら。ラ……ルーネ? リューン? ……あ! 『ラ・リュンヌ』だわ!

 今話題のオーベルジュの名前を思い出した。業界トップのホテルグループ『香月(かつき)リゾート』が手掛けた宿泊型レストランだ。地元で取れる食材を使った本格的なフレンチが絶品だと、テレビや雑誌でよく取り上げられている。

 まさか……今からここに? しかもこんな格好で⁉
 
 いくら車のエアコンで多少ましになったとはいえ、こんなおしゃれな場所にこの状態で入るなんてできない。食事を楽しむどころではないし、お店にも周囲のお客様にも迷惑だろう。

 日帰りランチすら予約一年待ちと噂のこのお店の予約をどうやって取ったかはわからないけれど、せっかく連れて来てくれたのを『恥ずかしいから』と言う理由で断っていいものか。

 悩んでいるうちに、彼が建物の方へ歩きだした。

「あのっ……待って――」

「早くしないとまた濡れねずみになるぞ」

 振り返った彼が言う。私はためらったけれど、雨の中彼を待たせるのが申し訳なくて、おとなしくついていくことにした。

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