滅びの魔女と楽園の神官
「それに、そんな力を持つ者がいたとして、その者に国を滅ぼす気があれば、この国はとうに滅びているわ。そうでしょう?」
「しかし……、星は誰かがこの国を滅ぼすと予言しています。原因となる何者かは存在するはずです」
ヴィンセントが言ったとき、道の先に荷車が見えた。驢馬に引かせた荷車が並足でヴィンセントたちとすれ違い、十分に距離が離れてから、ノインが口を開く。
「国が滅ぶとは、どのようなことを指しているのかしら」
「え?」
「誰かの魔法で、この国の街も人々も何もかも、すべてが吹き飛ぶことかしら。それとも、今の動揺につけこんで、隣国あたりが攻め込んでくることかしら」
「神殿はそれを読み解こうとしましたが、星の予兆は明確な事象を示していません」
「国が滅びさえすれば何でもありってことじゃないの、それは」
ノインはさらりと恐ろしいことを言う。
「存在するかどうかもわからない魔女を探すより、ほかにすべきことがあるように思うわ」
「国も、さまざまに手を尽くしてはいるのです」
「結果として、人々は滅びより、軍や神殿、国王を恐れているのよ」
ヴィンセントは、その言葉の内容と、ノインの冷静さ、どちらにも、言いようのない無力を感じた。何か、途方もないものを相手にしている感覚がある。
「ノインは、国が滅びてもかまわないと思っているのですか?」
ふたりは森の入り口に差し掛かっていた。
木々が鬱蒼と生い茂り、昼間でも薄暗い道が続く。ここ数日は雨が降っておらず、この道を行き来する馬車の轍はまだ残っているが、ひと気はない。
ノインは臆する様子もなく足を進め、一瞬怯んだヴィンセントが、数歩ぶん置いて行かれる。慌てて追いかけたヴィンセントを肩越しに振り返り、彼女は初めて、ほんのりと微笑んだ。
「もし、国が滅びるというのなら……」
追いついたヴィンセントは、ノインとともに森に踏み入る。数歩も行けばたちまち周囲は暗くなり、よく見なければ、正しい道から逸れてしまいそうである。
その中を、ノインは迷わず歩いてゆく。
「その瞬間を、この目で見てみたいとは思うわ」
「しかし……、星は誰かがこの国を滅ぼすと予言しています。原因となる何者かは存在するはずです」
ヴィンセントが言ったとき、道の先に荷車が見えた。驢馬に引かせた荷車が並足でヴィンセントたちとすれ違い、十分に距離が離れてから、ノインが口を開く。
「国が滅ぶとは、どのようなことを指しているのかしら」
「え?」
「誰かの魔法で、この国の街も人々も何もかも、すべてが吹き飛ぶことかしら。それとも、今の動揺につけこんで、隣国あたりが攻め込んでくることかしら」
「神殿はそれを読み解こうとしましたが、星の予兆は明確な事象を示していません」
「国が滅びさえすれば何でもありってことじゃないの、それは」
ノインはさらりと恐ろしいことを言う。
「存在するかどうかもわからない魔女を探すより、ほかにすべきことがあるように思うわ」
「国も、さまざまに手を尽くしてはいるのです」
「結果として、人々は滅びより、軍や神殿、国王を恐れているのよ」
ヴィンセントは、その言葉の内容と、ノインの冷静さ、どちらにも、言いようのない無力を感じた。何か、途方もないものを相手にしている感覚がある。
「ノインは、国が滅びてもかまわないと思っているのですか?」
ふたりは森の入り口に差し掛かっていた。
木々が鬱蒼と生い茂り、昼間でも薄暗い道が続く。ここ数日は雨が降っておらず、この道を行き来する馬車の轍はまだ残っているが、ひと気はない。
ノインは臆する様子もなく足を進め、一瞬怯んだヴィンセントが、数歩ぶん置いて行かれる。慌てて追いかけたヴィンセントを肩越しに振り返り、彼女は初めて、ほんのりと微笑んだ。
「もし、国が滅びるというのなら……」
追いついたヴィンセントは、ノインとともに森に踏み入る。数歩も行けばたちまち周囲は暗くなり、よく見なければ、正しい道から逸れてしまいそうである。
その中を、ノインは迷わず歩いてゆく。
「その瞬間を、この目で見てみたいとは思うわ」