滅びの魔女と楽園の神官
 ノインは、ほのかな笑みを浮かべて、彼女の胸のあたりを手のひらでそっとおさえた。その手の下に、彼女にとって大切な何かがあるのだと、ひと目でわかる丁寧な仕草だった。
 そのさまに、これ以上は深く踏み入りすぎる気がして、ヴィンセントは問いを重ねられなかった。彼女の心の大切なところを暴いてよいと思えるほど、彼女と親しくはない。
 親しくなるべきなのかもわからない。

 ノインを見つめていて、また目が合ったらすべて見透かされそうで、ヴィンセントは顔を前に向けた。進むべき道を、ノインの光が淡く照らしている。
 星は、何者かによって国が滅ぶと示した。それは事実だ。
 ヴィンセントはつい空を見上げようとし、木々の枝葉に遮られて、視線を戻した。今の視線の動きを、ノインに気づかれていなければいいと思う。
 この道を進めば、迷うことなく森を出られるのだろう。ノインの迷いのなさに、そう思わされる。

(けれど、僕の進むべき道は……?)

 ヴィンセントは己のなかで、答えの出ない問いを転がしては、ため息を押し殺した。

 滅びの魔女。

 国でそう呼ばれる少女の、本当の容姿を、ヴィンセントだけが知っている。
 星の光のような淡い金髪に、薄灰色の瞳。
 それらは、炎の光を受けると、濃い金に輝く。
 前を行くノインの背――そこに流れる淡い金の髪を見つめる。

(やっと、あなたを見つけました)

 本物の魔女を見つけるまで、神殿を出て数年かかった。けれど、神殿を出るときに心に決めたことを、今、果たして正しいと言えるのか、わからなくなっている。
 この国を導いてきた無数の星の光たち。
 ノインの髪の色をそれらに重ねて、ヴィンセントは祈るような気持ちを抱いた。


 星が道を示すというなら、どうか教えてほしい。
 彼女を、殺すべきなのか。
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