最弱探偵

【09 一時的な記憶喪失により(4)】

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・【09 一時的な記憶喪失により(4)】
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 浅田先生は僕らを見るなり、
「ああ! 用事用事ねぇ!」
 と言って囲みから抜け出そうとしたんだけども、虎太郎お兄ちゃんは手で制止のポーズを作りながら、
「何で村井さんは女子からも嫌われているんですか? 女子にも普通に手を出すんですか?」
 浅田先生は「いや!」と叫んでから、
「さすがに男子が女子に手をあげないですよ! あれです! 食べているお菓子を勝手に食べたりしたりです!」
 すると浅田先生を囲んでいた一人の女性の先生が、
「村井が学校菜園を荒らすのやめさせてください! このこともです! 女子生徒が村井のこと嫌っているのは!」
 虎太郎お兄ちゃんはその女性の先生へ、
「女子生徒が基本的に、学校にある菜園を育てているんですか?」
「勿論男子も育てていますが! 菜園の選択授業は女子が大半なんです!」
 と浅田先生に怒るテンションで、そのまま声を荒らげた。
 虎太郎お兄ちゃんは落ち着いた声で、
「その菜園を拝見したいです」
「じゃ! 連れていきますよっ」
 その女性の先生は立ち上がり、こちらを手招きしながら、職員室から出て行ったので、僕たちはついていくことにした。
 女性の先生は相当、村井さんというか、浅田先生にもご立腹のようで、あの問題児に対して何もしない浅田先生の愚痴をずっと喋っていた。
 菜園は意外と広く、校舎に沿って畑があるんだけども、その幅は五畝もあった。
 そこにはいろんな野菜が育っているんだけども、どれもまだ花だけで、何が何やらサッパリだった。
 すると王茶先生が、
「虎太郎くん、何の野菜か分かるぅ?」
 と言うと虎太郎お兄ちゃんはすぐさま、
「この紫色の花がナスで、黄色がミニトマトですかね、サツマイモの畝もありますし、カボチャも花が咲いていますね。あっ、二十日大根もありますね」
 その女性の先生は少し嬉しそうに、
「分かるんですねっ」
 と言うと、虎太郎お兄ちゃんは申し訳無さそうに、
「なんせ最弱なので知識だけは入れておかないとダメですから……」
 と言って、女性の先生は当然ながら小首を傾げた。もう、初対面の人にそういうこと言わないでよ。
 虎太郎お兄ちゃんは続ける。
「ここ、もしかすると調理室へ直結で行けますか?」
 と指差した先は調理室のようで、引き戸から勝手口のようにすぐ出入り出来るようになっていて、窓から覗くとコンロやたくさんの棚があった。多分棚の中に食器とかフライパンがあるんだと思う。
 女性の先生は、
「はい、そうですよ」
 と答えると、虎太郎お兄ちゃんは矢継ぎ早に、
「で、調理を行なう部活ってありますか?」
 女性の先生は急に目をかっぴらいて、
「それぇ!」
 と言ったと思ったら、
「村井って菜園を荒らすだけ荒らして、勝手に調理室を使いに来るんで、料理部は今休止しているんです! 料理部! みんな女子です!」
 虎太郎お兄ちゃんはうんと頷いてから、
「料理部が休止したら、なおも勝手に使うんじゃないんですか?」
「その通りです! だからもうどうしたらいいかぁ!」
 と女性の先生が声を荒らげてから、我に返ったような顔をし、
「すみません……感情が出過ぎてしまいました……料理部の顧問なので……」
 どうやら生徒だけじゃなくて、先生らからも恨みを買っているらしい。こりゃ容疑者が多過ぎる。
 虎太郎お兄ちゃんは一息ついてから、
「でもこの時期はまだ野菜が少ないですよね、それでも調理しますか」
「まず村井って今二年生で菜園を荒らしているのは去年からで。で、調理は現在進行形でします。現在休止の理由になった二十日大根は勿論、買ってきたパンを勝手にフライパンで焼いて、たいして洗わず片付けて、それをわたしが洗ってって」
「ここ、高校なので当然台車とか、人ひとりを隠す程度のブルーシートもありますよね」
 するとその女性の先生は目を丸くしながら、こう言った。
「もしかするとわたし、疑われていますぅっ? いやいや、いやいやいや、わたしも村井には恨みがありますが、さすがに職を失う覚悟でそんなことしないですっ」
「そうじゃなくて、です。台車やブルーシートはあると思いますか? 黒幕でもいいです」
「いやいやいやいやいやいや! わたしじゃないですぅ!」
 何か、ちょっと女性の先生はパニックになっているみたいだった。何だか怪しい。それに呼応するように王茶先生も慌てだしている。同時に鳴らし始めたメトロノームか。最後一緒のリズムになるヤツ。
 虎太郎お兄ちゃんは深呼吸をしてから、
「大丈夫です。疑っていません。犯人は十中八九、複数人です。さすがに先生で、教師で徒党を組んで村井さんを気絶させようとなんてしないはずです」
 その女性の先生も深呼吸してから、
「そうですよね、その通りです。台車もブルーシートもあると思います」
 でも最初の頭脳戦もそうだし、虎太郎お兄ちゃんはこの女性の先生を疑っているのかもしれない。
 女性の先生とは一旦その場で別れた。女性の先生は「本当にわたしじゃないですから!」と念を押して行った。
 さて、虎太郎お兄ちゃんは次に何をするかと思って顔をまじまじと見ていると、こう言った。
「難しいですね……」
 やっぱり探偵業は簡単じゃないということかぁ……こうやってお金を稼ぐことは無理なのかな……王茶先生も不安そうに虎太郎お兄ちゃんを見つめている。
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