幸せの苦痛

2話「白石美桜」

彼女と出会ったのは、中学校に入って間もない頃だった。
白石美桜。
ソフトボール部に所属していて、明るい表情がよく似合う女の子だった。
最初から特別な関係だったわけじゃない。
すれ違えば挨拶をする。
話す機会があれば、少しだけ会話をする。
それくらいの距離だった。
けれど、いつからだろう。
気づけば、彼女の姿を目で追うようになっていた。
廊下で楽しそうに笑っている姿。
友達と話しているときの表情。
何かに夢中になっているときの、少しだけ真剣な顔。
その一つひとつが、僕の目には特別に映った。
彼女と話せた日は、なんとなく気分がよかった。
挨拶を返してもらえただけで、少しだけ嬉しくなった。
たった一言の会話を、家に帰ってから思い返すこともあった。
今考えれば、ずいぶん単純だったと思う。
でも、恋なんてきっと、そういうものなのかもしれない。
相手にとっては何でもないことが、自分にとっては忘れられない出来事になる。
何気ない言葉に喜んで、何気ない表情に心を動かされる。
僕にとって、彼女はいつの間にかそんな存在になっていた。
そして、ある日。
僕は自分の気持ちを彼女に伝えた。
緊張して、何を話したのか、今でもはっきり覚えているわけじゃない。
ただ、伝え終わったあと、彼女が僕を見て笑ってくれたことだけは覚えている。
「私でよかったら、よろしくね」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥がいっぱいになった。
嬉しくて、恥ずかしくて、信じられなくて。
僕は何度も頷いた。
こうして僕たちは、恋人同士になった。
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