幸せの苦痛
3章「2人の幸せ」

1話「君の隣」

付き合い始めてから、毎日が少しずつ変わった。
学校で顔を合わせるだけでも嬉しかった。
メッセージが届けば、すぐに画面を開いた。
返事が来るまでの時間さえ、どこか特別に感じていた。
僕たちは、いろいろな場所へ出かけた。
一緒に歩いて、話して、笑って。
特別な場所じゃなくてもよかった。
二人でいられるなら、それだけで十分だった。
帰り道に手を繋いだときのことを、僕は今でも覚えている。
初めて繋いだときは、どうしていいか分からなかった。
手の温かさが気になって、歩く速度までぎこちなくなった。
「緊張してる?」
美桜が笑いながら聞いてきた。
「……してない」
「うそ。顔に出てる」
「うるさいな」
そう言いながらも、僕は手を離さなかった。
むしろ、離したくなかった。
その手が温かかったから。
その隣に彼女がいてくれたから。
あのときの僕は、何でもない帰り道が、いつまでも続けばいいと思っていた。
けれど、学校では二人の関係を秘密にしていた。
誰かに知られたら、何かが変わってしまう気がした。
今までどおり友達と笑っていたかったし、二人の関係を周囲の話題にされたくなかった。
だから僕たちは、学校では普通の同級生のように振る舞った。
二人でいるときだけ、恋人同士に戻る。
それが僕たちの選んだ形だった。
< 5 / 21 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop