幸せの苦痛

2話「笑えなくなった日」

学校へ行けば、誰かに会う。
誰かに会えば、何かを言われるかもしれない。
そんな考えが、頭から離れなくなった。
以前なら楽しみだった休み時間も、落ち着かなくなった。
友達と話していても、周囲の声が気になった。
笑っている人がいれば、自分のことを話しているのではないかと思ってしまう。
もちろん、本当にそうだったのかは分からない。
関係のない話だったのかもしれない。
ただの笑い声だったのかもしれない。
それでも、一度気になり始めると、以前のようには受け流せなかった。
僕は、人と一緒にいることが好きだった。
だからこそ、人の言葉が怖くなってしまったことが、何よりも苦しかった。
教室にいる。
授業を受ける。
友達と話す。
部活へ行く。
以前は普通にできていたことが、少しずつ難しくなっていった。
美桜との関係についても、不安が増えていった。
彼女まで噂に巻き込まれてしまうのではないか。
自分のせいで、彼女の学校生活まで苦しくなってしまうのではないか。
そんなことばかり考えた。
僕は、彼女を好きだった。
だから、傷つけたくなかった。
けれど、何をすれば正解なのか分からなかった。
自分の気持ちを隠しても苦しい。
誰かに話しても、何が変わるのか分からない。
我慢すれば、そのうち終わるのだろうか。
そんなふうに考えながら、僕は毎日を過ごしていた。
そして、ある朝。
制服を着ても、玄関から先へ進めなくなった。
学校へ行かなければいけない。
そんなことは分かっていた。
授業だってある。
友達だっている。
部活だってある。
それなのに、足が動かなかった。
学校へ行くことを考えるだけで、胸の中がいっぱいになった。
「今日は、休みたい」
自分でも驚くほど小さな声だった。
その日から、僕の日常は変わっていった。
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