占い師ミラと予言カード
犯人とその想い
それから数日。
中島のラブレターはまだ見つからない。
それもそのはずだ。
おそらく、あの人物が中島のラブレターを盗んだのだから。
ミラは、朝食を食べながら「仮面」のカードを眺めていた。
ーー誰かが本音を隠している。
「まずい、まずい! 遅刻する〜!」
父・透は今朝もこの調子だ。
ケンケンしながら靴下を履いている。
「あれ? ミラ、今日は本は読んでないんだね」
「あ、うん」
透は片足立ちのままミラに声をかけた。
そして「あれ? そのカード」とカードのことを知っているような表情をする。
「お父さん、もしかしてこのカード見たことあるの?」
「あ、なんか見覚えがあるなって。母さんが使ってたやつに似てるな。あ! まずい! 早く行かなきゃ! この話はまた夜にね」
透はそう言い放って、家を出て行った。
母さんが使っていたカード……。
どういうことだろう。
ミラの頭にはモヤのようなものがかかる。
思い出せそうで思い出せない記憶の端が顔をのぞきそうだった。
◇◆◇
「飯田さん、ちょっといい」
ミラは昼休みに飯田ユイを呼び出した。
中島には悪いが、飯田に確認しなくてはならないことがある。
いつも一緒にいる中島と飯田だが、朝日と常田に相談して、昼の時間に飯田を一人にすることに成功した。
昼休みの体育館裏に人はいない。
飯田に配慮して、誰にも話しを聞かれないところをミラは選んだ。
「黒瀬さん、突然話しって何?」
飯田はお人形のような丸々とした瞳を揺らして、ミラを見つめた。
普通、クラスメイトに突然声をかけられ、体育館裏に呼び出されるなんて「何事だろう」と少々怪しく思うものだろう。
だが、ミラは140センチしかないチビでクラスでも浮いている。
クラスのマドンナ的存在である飯田は「何か悩みでもあるなら聞いてあげなきゃ」くらいに思ってついてきてくれたようだ。
天然パーマのロングヘアがフワッと風に揺れて、イチゴのような甘いいい香りがする。
「ここに座ろう」
ミラは体育館の裏口の段差に腰を下ろした。
飯田はスカートを丁寧に整えてから隣に座る。
そんな仕草も上品で女の子らしい。
「一ノ瀬シュウ」
ミラはいきなり一ノ瀬の名前を口にした。
ーービクッ。
そのワードを耳にした瞬間、飯田の身体は跳ね上がる。
ミラは飯田には申し訳ないが、昼休みの短い時間で決着をつけなければいけないーーつまりラブレターがなぜなくなったのかを聴き出さなくてはならない。
「飯田さんの幼馴染だよね。一ノ瀬シュウ」
「ええ。そうだけど。どうして知ってるの?」
「一ノ瀬くんに聞いたから」
「……そう」
飯田も特進クラスだ。
どうして、ミラがこの会話を持ち出したか、ある程度は予想がついたのだろう。
膝にある手をグーにしてグッと握った。
「単刀直入に聞くね。中島さんのラブレターを盗んだのは、飯田さんだよね」
「…………」
飯田が唇をぎゅと噛み、黙っているので、ミラは飯田のグーに握られた手に手を重ねる。
「責めてるんじゃないよ。事情があるんだってわかってる。だから本当のことを話してほしい」
「…………」
「中島さんに、ラブレターが無くなったと聞いて。ほら、私黒魔術が使えるって噂されてるから」
「…………」
「それでね、ラブレターのことを知っているのは飯田さんだけだって聞いたから、私『飯田さんが盗んだ可能性は?』って中島さんに言っちゃったの。そしたらね」
「…………」
飯田はつらつらミラが話しているのを静かに聞いている。
相槌も打たず、足の先を見つめていた。
「中島さんは『そんなことあるわけない』って、強く否定したよ」
「……!!!」
飯田は驚いた顔でミラを見た。
自分を信じている親友の話を聞いたからか、飯田の目から涙がこぼれ落ちた。
その涙は一筋、二筋と頬を伝う。
重ねられたミラの手の温もりを信じるかのように、飯田はやっと口を開いた。
「……ミキは……何も悪くないの。私が、私が全部悪くて……」
「飯田さんは優しい人だって、中島さんの話しを聞いてわかってる。だから、飯田さんは本当のことを私にもきっと話さないよね」
「……え?」
「全部自分で背負おうとしてる」
「…………」
「私の予想はこう。飯田さんは少し前に一ノ瀬シュウから告白されたんじゃない? でも飯田さんは断った。中島さんの恋を飯田さんは応援していたもんね」
人差し指で涙を払う飯田を前に、ミラは続けた。
「でも、それからも飯田さんはしつこく一ノ瀬に言い寄られていた。何度目かの告白の際に、一ノ瀬に何かしら脅されたんじゃない? どうしても一ノ瀬と付き合わなければならない状況に陥った」
「……どうして、一ノ瀬くんに脅されてるって……」
「まあ、私は黒魔術師らしいからね」
ミラが冗談を混ぜると、飯田は「へ?」という顔をする。
どうやら自分の冗談は、真実になってしまうらしい。
いかん、いかんとミラは話しを続けた。
「脅されながらお付き合いを続けていたそんなとき。中島さんが突然、一ノ瀬にラブレターを渡すと言い出したんじゃないかな。それで中島さんを守るために、飯田さんがラブレターをロッカーの中から盗んだんだよね」
「……ミキには、傷ついてほしくないの。だから、一生のお願い。ミキには黙っていてくれない?」
「飯田さんはそれでいいの?」
「ええ」
飯田は強く言い切った。
その目には一部の狂いもない。
「そう」
ミラは持ってきていたカードを制服のポッケから取り出した。
そして、飯田と自分の間にカードを広げる。
このとき、中島を占ったときのように手が動く感覚がした。
きっと、飯田のことも占える。
「どうしたの? 黒瀬さん」
「さあさあ一枚引いて」
「え?」
「いいから。一枚選んで」
少し困ったような表情をした飯田は、ゆっくりと一枚カードを手にした。
そのカードはーー。
ーー恋。
「恋……?」
「好きな人への気持ちと、友情との板挟み」
スラスラと今回もミラはカードの意味を口にした。
ミラの意志に反して口が動いたのだから、この意味をミラ自身もこのとき初めて知った。
そして、胸が苦しくなるような気持ちになった。
こんな気持ちは初めてだった。
中島のラブレターはまだ見つからない。
それもそのはずだ。
おそらく、あの人物が中島のラブレターを盗んだのだから。
ミラは、朝食を食べながら「仮面」のカードを眺めていた。
ーー誰かが本音を隠している。
「まずい、まずい! 遅刻する〜!」
父・透は今朝もこの調子だ。
ケンケンしながら靴下を履いている。
「あれ? ミラ、今日は本は読んでないんだね」
「あ、うん」
透は片足立ちのままミラに声をかけた。
そして「あれ? そのカード」とカードのことを知っているような表情をする。
「お父さん、もしかしてこのカード見たことあるの?」
「あ、なんか見覚えがあるなって。母さんが使ってたやつに似てるな。あ! まずい! 早く行かなきゃ! この話はまた夜にね」
透はそう言い放って、家を出て行った。
母さんが使っていたカード……。
どういうことだろう。
ミラの頭にはモヤのようなものがかかる。
思い出せそうで思い出せない記憶の端が顔をのぞきそうだった。
◇◆◇
「飯田さん、ちょっといい」
ミラは昼休みに飯田ユイを呼び出した。
中島には悪いが、飯田に確認しなくてはならないことがある。
いつも一緒にいる中島と飯田だが、朝日と常田に相談して、昼の時間に飯田を一人にすることに成功した。
昼休みの体育館裏に人はいない。
飯田に配慮して、誰にも話しを聞かれないところをミラは選んだ。
「黒瀬さん、突然話しって何?」
飯田はお人形のような丸々とした瞳を揺らして、ミラを見つめた。
普通、クラスメイトに突然声をかけられ、体育館裏に呼び出されるなんて「何事だろう」と少々怪しく思うものだろう。
だが、ミラは140センチしかないチビでクラスでも浮いている。
クラスのマドンナ的存在である飯田は「何か悩みでもあるなら聞いてあげなきゃ」くらいに思ってついてきてくれたようだ。
天然パーマのロングヘアがフワッと風に揺れて、イチゴのような甘いいい香りがする。
「ここに座ろう」
ミラは体育館の裏口の段差に腰を下ろした。
飯田はスカートを丁寧に整えてから隣に座る。
そんな仕草も上品で女の子らしい。
「一ノ瀬シュウ」
ミラはいきなり一ノ瀬の名前を口にした。
ーービクッ。
そのワードを耳にした瞬間、飯田の身体は跳ね上がる。
ミラは飯田には申し訳ないが、昼休みの短い時間で決着をつけなければいけないーーつまりラブレターがなぜなくなったのかを聴き出さなくてはならない。
「飯田さんの幼馴染だよね。一ノ瀬シュウ」
「ええ。そうだけど。どうして知ってるの?」
「一ノ瀬くんに聞いたから」
「……そう」
飯田も特進クラスだ。
どうして、ミラがこの会話を持ち出したか、ある程度は予想がついたのだろう。
膝にある手をグーにしてグッと握った。
「単刀直入に聞くね。中島さんのラブレターを盗んだのは、飯田さんだよね」
「…………」
飯田が唇をぎゅと噛み、黙っているので、ミラは飯田のグーに握られた手に手を重ねる。
「責めてるんじゃないよ。事情があるんだってわかってる。だから本当のことを話してほしい」
「…………」
「中島さんに、ラブレターが無くなったと聞いて。ほら、私黒魔術が使えるって噂されてるから」
「…………」
「それでね、ラブレターのことを知っているのは飯田さんだけだって聞いたから、私『飯田さんが盗んだ可能性は?』って中島さんに言っちゃったの。そしたらね」
「…………」
飯田はつらつらミラが話しているのを静かに聞いている。
相槌も打たず、足の先を見つめていた。
「中島さんは『そんなことあるわけない』って、強く否定したよ」
「……!!!」
飯田は驚いた顔でミラを見た。
自分を信じている親友の話を聞いたからか、飯田の目から涙がこぼれ落ちた。
その涙は一筋、二筋と頬を伝う。
重ねられたミラの手の温もりを信じるかのように、飯田はやっと口を開いた。
「……ミキは……何も悪くないの。私が、私が全部悪くて……」
「飯田さんは優しい人だって、中島さんの話しを聞いてわかってる。だから、飯田さんは本当のことを私にもきっと話さないよね」
「……え?」
「全部自分で背負おうとしてる」
「…………」
「私の予想はこう。飯田さんは少し前に一ノ瀬シュウから告白されたんじゃない? でも飯田さんは断った。中島さんの恋を飯田さんは応援していたもんね」
人差し指で涙を払う飯田を前に、ミラは続けた。
「でも、それからも飯田さんはしつこく一ノ瀬に言い寄られていた。何度目かの告白の際に、一ノ瀬に何かしら脅されたんじゃない? どうしても一ノ瀬と付き合わなければならない状況に陥った」
「……どうして、一ノ瀬くんに脅されてるって……」
「まあ、私は黒魔術師らしいからね」
ミラが冗談を混ぜると、飯田は「へ?」という顔をする。
どうやら自分の冗談は、真実になってしまうらしい。
いかん、いかんとミラは話しを続けた。
「脅されながらお付き合いを続けていたそんなとき。中島さんが突然、一ノ瀬にラブレターを渡すと言い出したんじゃないかな。それで中島さんを守るために、飯田さんがラブレターをロッカーの中から盗んだんだよね」
「……ミキには、傷ついてほしくないの。だから、一生のお願い。ミキには黙っていてくれない?」
「飯田さんはそれでいいの?」
「ええ」
飯田は強く言い切った。
その目には一部の狂いもない。
「そう」
ミラは持ってきていたカードを制服のポッケから取り出した。
そして、飯田と自分の間にカードを広げる。
このとき、中島を占ったときのように手が動く感覚がした。
きっと、飯田のことも占える。
「どうしたの? 黒瀬さん」
「さあさあ一枚引いて」
「え?」
「いいから。一枚選んで」
少し困ったような表情をした飯田は、ゆっくりと一枚カードを手にした。
そのカードはーー。
ーー恋。
「恋……?」
「好きな人への気持ちと、友情との板挟み」
スラスラと今回もミラはカードの意味を口にした。
ミラの意志に反して口が動いたのだから、この意味をミラ自身もこのとき初めて知った。
そして、胸が苦しくなるような気持ちになった。
こんな気持ちは初めてだった。