その溺愛、予想外につき。
手を貸したいのに貸せないみたいな顔で、ただ私を見ている。

その視線だけで、緊張がまた増した。

「じゃあ、最初に歌」

女性スタッフがタブレットを操作しながら言う。
名前もまだ聞いていないけれど、この人がたぶん一番厳しい。

「曲は、涼がデビューで歌う予定だったもの。知ってるんでしょ」

「はい……たぶん」

「たぶんじゃ困るの」

ぴしゃりと返されて、背筋がぴんとする。

「す、すみません」

「謝らなくていい。できるかできないかだけ見せて」

冷たい言い方なのに、不思議と意地悪には聞こえなかった。
甘やかすつもりがないだけなのだろう。

黒崎さんが、困ったように軽く肩をすくめる。

「その人、真白さん。育成担当。厳しいけど、仕事は確かだから」

真白さん。
私は慌ててもう一度頭を下げた。

「よろしくお願いします」

「まだよろしくされる段階じゃない」

即答だった。
その厳しさに、少しだけ泣きそうになる。
でも同時に、ここで泣いたら終わりだとも思った。

真白さんは音源をセットしながら言う。

「ワンコーラスだけでいい。立ち位置は中央。マイクはなし」

私はそっと部屋の真ん中へ歩く。
鏡の前に立つと、自分の小ささが嫌でも見えた。
細い肩。
頼りない手。
アイドルなんて言葉からいちばん遠そうな、普通の女の子。
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