その溺愛、予想外につき。
「この子、緊張するとすぐ謝るみたいです」

「直して。涼はそんなにおどおどしない」

その一言で、背筋が伸びた。

そうだ。
これから私は、ふわりじゃなくて涼に見えなきゃいけない。

真白さんは私の髪をひとつにまとめ、ネットの中へ丁寧に押し込んでいく。
頭皮が少し引っ張られる感覚。
慣れない不快感に、指先がそわそわする。

でも、それ以上に胸が落ち着かなかった。

鏡の中の私は、少しずつ見慣れた自分じゃなくなっていく。
長い髪が消えて、額が出て、輪郭がいつもよりはっきり見える。

「下向かないで」

「はいっ」

ぴしっと言われて、慌てて顔を上げる。

その時、部屋の隅で黙って立っていた涼と目が合った。
兄は何も言わない。
でも、その表情にはひどく複雑なものが滲んでいた。

心配。
罪悪感。
それから、少しの寂しさ。

それを見た瞬間、胸の奥がきゅっと痛くなる。

お兄ちゃんはどんな気持ちで見てるんだろう。
自分の代わりに、妹が自分の姿に変えられていくところを。

そう思うと、急に怖くなった。

私、本当に大丈夫なのかな。
お兄ちゃんの名前を借りて、ちゃんとやれるのかな。
ただ似せただけで、近づけるのかな。

「はい、これ」

真白さんの声で我に返る。

目の前に差し出されたのは、短い黒髪のウィッグだった。
艶のある、綺麗な髪。
兄がよくしている長さとよく似ている。

思わず息をのむ。

これをかぶったら、いよいよだ。
ただの思いつきじゃなくなる。
本当に、兄の代わりとして歩き出してしまう。
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