その溺愛、予想外につき。
「怒った顔もいいね」

「るか」

真白さんの声に、さすがにるかもそれ以上はからかわなかった。
代わりに、ドアにもたれながら私をじっと見つめる。

「でも、声の感じはちょっと惜しいかも」

「惜しい?」

意外すぎて聞き返すと、るかは頷いた。

「うん。高さじゃなくて、息の抜き方かな。涼って、もっと力抜いて喋る感じ」

その言い方が妙に自然で、私は思わず涼を見る。
兄も少し驚いた顔をしていた。

黒崎さんが感心したように言う。

「さすが同じグループでやってきただけあるな」

るかは得意そうに笑った。

「でしょ? 毎日一緒にいたもん」

その一言に、少しだけ胸がちくりとする。
私の知らない兄の時間がそこにある気がして。

るかはそんなことに気づかないまま、私の方へ近づいてきた。
気づけば、またすぐ目の前だ。

「一回、俺と喋ってみる?」

「えっ」

「メンバー相手なら、もう少し自然になるかもしれないし」

真白さんは少し考えてから、短く頷いた。

「やってみて」

そうなってしまえば断れない。
私はごくりとつばを飲みこむ。

るかはにっと笑って、わざとらしく片手を差し出した。

「はじめまして、天宮涼くん」

その芝居がかった口調に、少しだけ救われる。
緊張していた空気が、ほんの少しだけやわらいだ。

私は兄を思い浮かべながら、できるだけ短く返す。

「……どうも」

「ふふ、硬い」

「うるさい」

言った瞬間、部屋が少し静かになった。

私は自分の口を押さえたくなった。
今の、ちょっとだけ自然だったかもしれない。
でも同時に、素も混ざってしまった気がする。

るかは一瞬目を丸くして、それから楽しそうに笑った。

「今のいいじゃん」

真白さんも小さく頷く。

「たしかに。今の方がまだ自然」

え。
そっちなの。

戸惑う私に、るかが嬉しそうに言う。

「ほら、もっと俺にむかついていいよ」

「なんでですか」

「その方が素っぽいから」

意味がわからない。
でも、るか相手だと確かに少しだけ力が抜ける。
勝手にぐいぐい来るし、こっちが戸惑う前に会話を転がしてしまうからだ。

るかは満足そうに頷いてから、急に顔を近づけた。
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