その溺愛、予想外につき。
「ね、もう一回。今度は俺が話しかけるから、短く返して」

「ち、近いです」

「その言い方も直そうね」

にこにこしながら言われて、私は完全にるかのペースだった。

「涼、今日の昼どうする?」

「……別に」

「俺と一緒に食べる?」

「……好きにすれば」

「へえ。じゃあ一緒に食べる」

そんなやりとりを繰り返すうちに、部屋の空気が少しずつ変わっていく。
最初は張り詰めていたのに、今はどこか会話の練習らしい空気になっていた。

真白さんが腕を組み直す。

「完璧ではないけど、相手がいれば少しマシね」

「でしょ?」

るかがなぜか誇らしそうに胸を張る。

「あなたが得意げになることじゃない」

「えー」

その軽いやりとりに、思わず少しだけ笑いそうになる。
でもすぐに我慢した。
今の私は涼だ。
ふわりみたいにころころ表情を変えてはいけない。

そう思った時、るかがふいに私を見た。

「今、笑いそうだった」

「……気のせいです」

「へえ」

るかの目がいたずらっぽく細くなる。

「そういうとこ、好きかも」

その一言で、胸の奥がどくんと跳ねた。

好き。
そんな軽い言い方だってわかってる。
るかにとってはたぶん、深い意味なんてない。

それでも、今の私には刺激が強すぎた。

私は思わず視線を逸らす。
鏡の中の自分の耳が、少し赤くなっている気がした。

だめだ。
こんなんじゃ、先が思いやられる。

るかはそんな私を見て、なぜか満足そうに笑っていた。
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