その溺愛、予想外につき。
「っ……!」

身体がぐらりと傾く。

「危ない!」

るかがすぐに腕を伸ばし、私の腰を支えた。

そのまま、身体がるかの胸元にぶつかる。

近い。
あまりにも近い。

衣装越しに伝わる体温。
耳元にかかる吐息。
腕を支える、しっかりとした力。

「……やっぱり無理じゃん」

るかが小さく呟く。

「これは、その……」

言い訳を探している間に、るかは私の腕を自分の肩に回した。

「ほら。ちゃんとつかまって」

「でも……」

「でもじゃない」

いつになく強い口調だった。

るかは私の体を支えながら、ゆっくり歩き始める。
足を床につけるたび、痛みが走る。
そのたびに、るかの腕に力がこもった。

「痛い?」

「……少し」

「少しじゃないでしょ」

「るか、過保護」

「誰のせい?」

そう言いながらも、歩く速度はとてもゆっくりだった。

スタジオの外へ出ると、廊下にはもう人がほとんどいなかった。

私はるかの肩に体重を預けながら、なるべく平静を装う。

けれど、心臓は全然言うことを聞いてくれない。

近すぎる。
この距離は、いくらなんでも近すぎる。

「ねえ」

るかが前を向いたまま、ぽつりと声をかけてきた。

「何」

「どうしてそこまで頑張るの?」

その問いに、胸の奥がざわついた。

答えられない。
兄の代わりだからなんて、言えるはずがない。

「……やるって決めたから」

「それだけ?」

「それだけ」

「ふうん」

るかは納得していないようだった。

しばらく黙って歩いてから、また口を開く。

「涼ってさ」

その呼び方に、少しだけ身体がこわばる。

「前はもっと、自分のこと大事にしてた気がする」

「……そう?」

「うん。無理な時は無理って言ってたし、嫌なことは嫌って顔してた」

私は返事ができなかった。

お兄ちゃんのことを、るかは本当によく見ていたんだ。
私よりも近くで、一緒に過ごしてきた時間がある。
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