その溺愛、予想外につき。
声が少し震えた。
それでも、目をそらさなかった。
「私にできることが少しでもあるなら、やりたい」
長い沈黙が落ちた。
部屋の外から、食器の触れ合う小さな音が聞こえてくる。
誰もこの部屋には入ってこない。
たぶんお母さんも、私たちに任せてくれているのだ。
涼はしばらく黙ったまま、私を見ていた。
その視線が痛いくらい真っ直ぐで、逃げたくなる。
でも、ここで目をそらしたら終わる気がした。
やがて兄は、ぽつりと呟いた。
「……本当に、行く気?」
「うん」
「怖くないの?」
怖いに決まってる。
知らない世界に入ることも。
嘘をつくことも。
バレた時に全部終わることも。
でも。
「怖いよ」
正直に言うと、兄の目が少しだけやわらいだ。
「でも、お兄ちゃんの方がもっと怖いでしょ」
その一言に、兄は息を止めたみたいだった。
私はようやく気づく。
兄は悔しいだけじゃない。
きっと、怖いのだ。
夢が壊れることも、自分のせいで誰かの未来まで止まることも。
そう思ったら、胸がいっぱいになった。
「だから、私も一緒に背負う」
幼い頃、私が転んだ時に兄が手を引いてくれたみたいに。
今度は私が、兄の隣に立ちたかった。
涼は何度か言葉を飲みこんで、それからゆっくり椅子に座り直した。
その動きはひどく重たく見えた。
「……事務所が認めるわけない」
「まだわかんないよ」
「ふわり」
「お願い。話だけでもさせて」
兄は黙る。
私は祈るみたいな気持ちで、その返事を待った。
長く、長く感じる時間のあと。
涼は顔を覆って、深く息を吐いた。
「……一回だけだぞ」
「え」
「話をするだけ。一回、スタッフさんに相談するだけだからな」
その言葉を理解するまで、少し時間がかかった。
理解した瞬間、胸がどくんと大きく跳ねる。
「ほんとに?」
「その代わり、無理だって言われたら終わり。すぐ諦めること」
「う、うん……!」
ぱっと表情が明るくなる私を見て、兄は本当に困ったように笑った。
でも、さっきまでの絶望しかない顔より、ずっとよかった。
私はその場でぐっと拳を握る。
まだ何も決まってない。
認められるかもわからない。
きっと簡単じゃない。
それでも、止まっていた何かが少しだけ動き出した気がした。
兄の夢を守りたい。
そのためなら、どんなに無茶でも挑みたい。
この時の私は、まだ知らなかった。
その選択が、きらきらしたステージの裏側にある、秘密だらけの毎日へつながっていることを。
そして、そこで出会う男の子たちに、こんなにも心をかき乱されるなんて――。
それでも、目をそらさなかった。
「私にできることが少しでもあるなら、やりたい」
長い沈黙が落ちた。
部屋の外から、食器の触れ合う小さな音が聞こえてくる。
誰もこの部屋には入ってこない。
たぶんお母さんも、私たちに任せてくれているのだ。
涼はしばらく黙ったまま、私を見ていた。
その視線が痛いくらい真っ直ぐで、逃げたくなる。
でも、ここで目をそらしたら終わる気がした。
やがて兄は、ぽつりと呟いた。
「……本当に、行く気?」
「うん」
「怖くないの?」
怖いに決まってる。
知らない世界に入ることも。
嘘をつくことも。
バレた時に全部終わることも。
でも。
「怖いよ」
正直に言うと、兄の目が少しだけやわらいだ。
「でも、お兄ちゃんの方がもっと怖いでしょ」
その一言に、兄は息を止めたみたいだった。
私はようやく気づく。
兄は悔しいだけじゃない。
きっと、怖いのだ。
夢が壊れることも、自分のせいで誰かの未来まで止まることも。
そう思ったら、胸がいっぱいになった。
「だから、私も一緒に背負う」
幼い頃、私が転んだ時に兄が手を引いてくれたみたいに。
今度は私が、兄の隣に立ちたかった。
涼は何度か言葉を飲みこんで、それからゆっくり椅子に座り直した。
その動きはひどく重たく見えた。
「……事務所が認めるわけない」
「まだわかんないよ」
「ふわり」
「お願い。話だけでもさせて」
兄は黙る。
私は祈るみたいな気持ちで、その返事を待った。
長く、長く感じる時間のあと。
涼は顔を覆って、深く息を吐いた。
「……一回だけだぞ」
「え」
「話をするだけ。一回、スタッフさんに相談するだけだからな」
その言葉を理解するまで、少し時間がかかった。
理解した瞬間、胸がどくんと大きく跳ねる。
「ほんとに?」
「その代わり、無理だって言われたら終わり。すぐ諦めること」
「う、うん……!」
ぱっと表情が明るくなる私を見て、兄は本当に困ったように笑った。
でも、さっきまでの絶望しかない顔より、ずっとよかった。
私はその場でぐっと拳を握る。
まだ何も決まってない。
認められるかもわからない。
きっと簡単じゃない。
それでも、止まっていた何かが少しだけ動き出した気がした。
兄の夢を守りたい。
そのためなら、どんなに無茶でも挑みたい。
この時の私は、まだ知らなかった。
その選択が、きらきらしたステージの裏側にある、秘密だらけの毎日へつながっていることを。
そして、そこで出会う男の子たちに、こんなにも心をかき乱されるなんて――。