その溺愛、予想外につき。
私は慌てて姿勢を正す。
けれど、るかはそれを見て笑うだけだった。

「ほら、行こ」

るかが先に歩き出す。

私は少し迷ったあと、その隣に並んだ。

スタジオを出ると、夜の空気が肌に触れた。
昼間よりずっと冷たくて、疲れた身体には心地よかった。

しばらく、ふたりとも黙って歩く。

隣にるかがいるだけで、いつもの帰り道とは違って見えた。
街灯に照らされた横顔。
風に揺れる茶色の髪。
時々、こちらを気にするように向けられる視線。

意識しないようにするほど、意識してしまう。

「……今日さ」

るかが、前を向いたまま口を開いた。

「ん?」

「初めて踊ったのに、最後まで逃げなかったね」

「逃げたかったけど」

「え?」

「何度も」

正直に答えると、るかは少し驚いた顔をした。

「そうなの?」

「うん。みんなに迷惑かけるし、全然できないし……私、向いてないのかなって思った」

そこまで言って、私は慌てて口を閉じた。

今の言い方は、少し素に近すぎた。

けれど、るかは何も指摘しなかった。

「向いてるかどうかなんて、まだわかんないよ」

「……そうかな」

「うん。だって今日が初日でしょ」

るかは歩く速度を少し落とした。

「初日から完璧にできる人なんて、そんなにいないって」

「でも、お兄ちゃんはできてた」

その名前を口にすると、胸の奥が少し苦しくなる。

「涼は、昔から何でもできたから」

「そうだね」

るかは否定しなかった。

「ダンスも上手いし、歌も上手い。人前に立つのも慣れてる」

「……うん」

「でも、ふわりはふわりでしょ」

心臓が、大きく跳ねた。
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