極東4th
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 真理は──医者を用意していると言った。

 出撃間際の、一瞬のやりとり。

 前回、早紀が傷ついた時、確かに彼は調べておくようなことは言っていた。

 しかし。

 正直、その言葉など、まったく信用していなかったのだ。

 真理ではなく、鎧が彼女を治療してくれたのだから。

 医者など、それでもう必要はないはず。

 だが、真理は不思議なことを言った。

『鎧に治してもらえ』と。

『その後の医者は雇ってある』と。

 その後の医者?

 鎧に治してもらった後に、どんな医者が必要だというのか。

 早紀が考え込んでいる間にも、真理は躊躇なく金の鎧を斬りつけている。

 右手の感触が、奇妙だった。

 彼の冷たい気が、右腕の全てにまとわりついている。

 けれども、それが心地よいとさえ思えるのは、気の持ち主の真理と、同化しているせいだろうか。

 真っ暗な夜空に、氷がキラキラと跳ねる。

 砕けても砕けても、刀はすぐに新たな棘を生み、金の鎧に降り注ぐ。

 綺麗な、力だなあ。

 相手にとっては、とんでもない威力なのだろうが、魔族側にいる早紀にとっては、美しささえ感じるのだ。

 真理のことは、いまでも怖い。

 痛いのも怖い。

 でも、あの真理が早紀に医者を雇ったと。

 それがどんな役割なのかは、きちんと理解は出来ていなかったが、とてつもないことだと、少しずつ感じていた。

 勿論、それは彼が早紀を鎧として、メンテナンスしているにすぎないことは分かっている。

 物としてだとしても、あの真理の手をわずらわせているという事実は、すごいものに思えたのだ。

 そして、今。

 真理の冷気を、共有している。

 別人として向かい合っている時には、早紀を怯えさせることしかしなかった冷たい気配。

 こんなに馴染む冷たさを感じたのは、産まれて初めてだった。

『ステルスを…はずせ。危ないと思ったら…勝手に戻せ』

 真理の、声がした。

 ほんの一歩。

 譲歩が混じっていた。
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