極東4th
---
「そんなのウソです!」

 不覚にも、真理は驚かされた。

 早紀の大声を、現実的に聞く日が来るなんて、思ってもみなかったからだ。

 声は、廊下から。

 距離があって、ドアという遮蔽物があってなお、彼の耳まで大きく届いていた。

 何事かと視線を向けるが、ドアや壁が邪魔をして様子を伺うことは出来ない。

 その後、大きな声は打ち止めになったらしく、それ以上の声は真理の位置まで届かなかった。

 一体、誰相手に何の騒ぎなのか。

 珍しすぎる出来事だから、なのだ。

 真理は、ドアを開けたくなっていた。

 しかし、理性がそれを押しとどめてもいた。

 たかが早紀の大声で、自分が出て行くまでもない、と。

 どうせ、くだらないことに違いない、と。

 廊下は静まり返り、真理は興味を失うために視線を部屋の中に戻そうとした。

 コンコン。

 ノックが──それを許さなかった。

 ぴりっと。

 自分の指先に、電気が走る。

 彼が持っている力は冷気であって、電気ではないというのに。

「僕だよ」

 ドアの向こうにいたのは、従兄だった。

 早紀ではない。

 ふっと息をつき、中に招き入れる。

「一応、耳に入れておこうと思ってね」

 斜め後ろを、一瞬見る動作。

 さっき、早紀に大声を出されていたのは、この男なのか。

「彼女…変じゃないか?」

 彼女、とは早紀のことだろう。

 しかし、その彼女が変なのは、今に限ったことではないだろうに。

「魔女の写真を出して、この人を知らないかと言うんだ」

 不可解な視線の動き。

「…誰の写真だったと思う?」

 そんな修平の視線が、真理の眉間で止まった。

 分かるはずのない真理は、瞼の動きだけで先を促す。

「彼女の…母親の写真さ」

 一瞬──早紀の部屋で見た、魔女らしくない女の笑顔が、真理の頭をよぎった。

< 111 / 273 >

この作品をシェア

pagetop