極東4th
 屋敷を出て歩くと。

 早紀は、目が覚めるような強い気を感じた。

 脳に風が入り、深く息が吸える。

 開放感だろうかと思いかけたが──違うと、気づいた。

 空気をとりまく粒のひとつひとつに、『魔』を感じたからだ。

 これが、あの涙の効果なのか。

 少し嫌な幸福感。

 無理やり、幸せにさせられる感覚だ。

 学校で、真理を取り囲んでいた魔女たちは、これをありありと感じたのだろう。

 早紀の心の奥の一箇所だけが、微かな苦さを感じていた。

 それでも。

 幸福感を消すことは、出来ない。

 屋敷にいた時の重さが消えてゆき、早紀は自然に足取りを軽くしていた。

 黒っぽい服に黒い髪という、重たい身なりだというのに。

 駅前は、人で溢れていた。

 その多くの人を見た時、早紀は背筋がひやっとするのを覚える。

 もう、自分があの集団の中にいるべき人間ではないと、知ってしまったからだ。

 考えないようにしながら、それでも直視できずに、彼女は斜め下を見るようにして歩く。

 そんな、下の方を這う彼女の視線に。

 靴が。

 真新しい、真っ白いスニーカーが。

 ん?

 ビルとビルの隙間。

 小さな小さな路地の入り口に、片方だけスニーカーが落ちていたのだ。

 んん?

 好奇心でつい。

 早紀は、靴から路地の奥へと視線をのばす。

 足があった。

 地面に横たわる足。

 足だけじゃなくて、上にはちゃんと身体もついていた。

 要するに──人が、倒れていたのだ。

「……!」

 見つけてはいけないものを、見つけてしまった。
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