極東4th
 足が――もつれる。

 絶対!

 早紀は、転びそうな前のめりの身体をそのままに、なんとか走った。

 恐怖というより、異物感。

 絶対……普通の人じゃない!

 それだけは、早紀には確信があった。

 この世界に、人間以外のものがいるのは、よくわかっていた。

 多分、そっち属性の何かなのだろう。

 そうと分かれば、関わってはいけない。

「待って!」

 なのに。

 なのに彼は――早紀を、見失わなかった。

 振り返ったら。

 片方の靴のまま、彼は追い掛けてきている。

 大きい人だ。

 そして、人間ではない。

 そんな相手に追いかけられるのだから、早紀は恐怖で竦み上がるべきだった。

 だが、彼の瞳には、毒をまったく感じない。

 人混みの中。

 早紀は、走る足を緩めていた。

 追い付いて、しかし、少しの距離を残して止まった男。

 気付けば、周囲の誰もが、自分と彼を振り返ってもいる。

 慌てすぎたせいなのか。

 早紀のステルスは、切れているようだ。

 この人は、なんなのだろう。

 早紀は、いまもなお彼に、何か吸い上げられている気がしながら、その大きい身体を見上げる。

「こわがらないで…」

 自分からは触れないことを見せるように、彼は更に一歩下がった。

 見ると、さっきまで苦しんでいたのが嘘みたいに、息ひとつ乱していない。

「君は命の恩人だ…そんな人を、ただで帰しては、私は叱られてしまう」

 その、整った息から吐き出された言葉は――遠い遠い昔に、聞いた言葉とよく似ていた。
< 74 / 273 >

この作品をシェア

pagetop