極東4th
 早紀は──部屋にいなかった。

 ノックをして、返事がなかったため真理は、結局その扉を開けたのだ。

 また魔力を抜かれて、抜け殻のようになっているかと思ったのである。

 しかし、部屋は空っぽで。

 使用人が、「お出かけになったようです」と、一言。

 珍しいこともあるものだ。

 早紀が、自分から──自分ひとりで、出かけるとは。

 いまは魔の涙なので、傘の外にいても問題はない。

 ただ。

 その行動そのものが、彼女の反逆の証のようにも感じた。

 真理に、面と向かって反論できない早紀の、ささやかな抵抗。

 これから一緒に暮らし、そして、一緒に登校することになるだろうタミを、紹介しておこうと思ったが。

 明日も休みではあるので、急ぐことではない。

 だが、気分的には、面白くはなかった。

 反逆の意思を示したこともそうだが、妙に胸騒ぎがしてきたのだ。

 遠く離れていても、確かに真理は早紀と根底でつながっていて。

 その気配だけは、分かる。

 距離は関係ないのか、早紀が出かけたことは分からなかった。

 ただよく意識をこらすと、気配にかすかな雑音が混じっている気がするのだ。

 それに、早紀は鎧だった。

 蝕は、夜にしか起きないとは言え、いまもし彼女に何かあって、帰れない状況が出来た場合、真理に支障が出る。

 鎧が行方不明で、出撃できませんでした──などという失態は、あってはならないのだ。

 雑音の正体が、何なのか分からない事もまた、真理の意識を割こうとする。

 誰かと…一緒か?

 以前、トゥーイにちょっかいをかけられた時には、雑音はなかった。

 人間たちの中に、いるせいかもしれない。

 それらの出す気は、魔族とは違うからだ。

 他の種族か、と一瞬頭をよぎりかけたが、真理はすぐにそれを払った。

 天族が、魔の涙の間に出歩くはずがない。

 海族は、それをものともしないが──長時間、海から離れては生きられないのだ。

 人間の中にいるだけなら、心配しなくていいだろう。

 不快は隠せないが、真理はそう結論づけたのだった。
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