極東4th
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 いつもの早紀と──何か違う。

 真理は、一瞬それが何なのか、すぐには分からなかった。

 泣いた目だろうか。

 街に行って、何故泣くのかは、想像も出来ない。

 それとは、また別に。

 何度もためらった末のノックの後、早紀が入ってきた姿を、真理はじっと見た。

 よく見れば、おかっぱが少し違う。

 左の髪に、濃紺のリボンが絡み付いているのだ。

 それが。

 何故か、早紀らしくないと思った。

 彼女のことを、よく知っているわけではない。

 だが、臆病で自分を消すことにかけては天下一品の、影の薄い女は、人と違うことをして、自分を主張しようとはしなかった。

 そのリボンは、真理には『違うこと』に見えたのだ。

「あの…なんでしょう」

 真理は、自分でも気づかないほど長く黙り込み、彼女を見ていたようだ。

 あの早紀が、しびれを切らして、言いにくそうに話を切り出すのだから。

 ああ、と。

 真理は、気を取り直した。

「誰と…一緒だった?」

 リボンを巻き、そして泣いた顔で帰ってきた。

 それは、早紀が誰かと一緒だったという証拠なのだろう。

 本来の話は別にあったが、まずは気になるところから聞く。

 その誰とやらが、あの雑音の元だったのかもしれないのだ。

 瞬間。

 真理は、心の中で驚いていた。

 早紀の表情が、この世の終わりのように強張ったからだ。

 唇が。

 わなわなと、震えだす。

「誰とも…」

 その震える唇が、嘘を──あの早紀に、嘘を言わせようとしているのに気づいた。

 だが。

「……いえ…言いたくない…です」

 唇は、嘘は言わなかった。

 代わりに。

 初めて、目の前で真理に逆らった。
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