極東4th
 早紀の足元に、水が漂っていた。

 それが、ちゃぷんと音を立てたのだ。

 何でもありの夢の中。

 驚いて、彼女は鎧を見上げる。

 なんで?

 早紀は、疑問を思い浮かべながらも、水に出会ったのは今回が初めてではないことにも気づいていた。

 何も考えられなくなった時。

 彼女の足元で揺れていたのは、何だったのか。

 もっと遡ると。

 鎧であった彼女の首筋から、武器が抜き取られる時、自分は水音を聞かなかったか?

 それは、早紀の中にずっと潜んでいたのだ。

 自分自身にさえ、隠れるようにひっそりと。

「だ、だって、私…魔族…」

 足首まで水に浸したまま、彼女は混乱していた。

 昼間。

 伊瀬は、この匂いを嗅ぎ取ったのだろうか。

 水は、リボンと同じ色をしていた。

 浅いはずの水なのに、光をほとんど与えられなかった色だ。

「オレも、契約の時にちらっと見ただけだ…」

 鎧の足が、水を蹴飛ばす。

「まあ、何だっていいさ…お前さんが、魔族じゃなくて、実は海族だったとしても構わないしな」

 早紀が、考えまいとしていたことさえ、平気でこの男は口にするのだ。

「私が海族ってこと…ありえるのかな…」

 頭をよぎるのは、伊瀬の顔。

 自分が魔族なんて、やっぱり未だにおかしい気がする。

 実は、何かの間違いで海族だったなら──早紀は、その希望をじっと見つめた。

「さぁな…俗世のことは、オレにはよく分からん」

 鎧は、そこで話を切り上げるのかと思った。

 早紀の足元の水を、消してしまったから。

 だが。

「お前さんが、もし海族というのなら…お前さんを作ったのは、海族ってことじゃないのか?」

 作る。

 そんな変な単語が混じっていたので、早紀はすぐにピンとこなかった。

 あっ。

 早紀は、水の失われた足元を見る。

 お父さん!?

 私のお父さん──誰?
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