極東4th
「おかあさん、おはよう…」

 ちょっと複雑な気分で、母親に挨拶は済ませた。

 夢の中から持ち帰った、記憶のせいだ。

 早紀の、父親に関すること。

 確かに、住んでいたところの近くに、海はあった。

 母親と出かける時に通る道は、いつもどこか魚の匂いがしていて。

 だが、それ以外の父親の記憶や、海との関連を探そうとしたが、有力な手がかりはなかった。

 そんな、早紀の記憶の糸は、途中で切れてしまう。

 好きで切れさせたわけではない。

 ノックのせいだ。

「は、はい…」

 ベッドの上に座ったまま、母の写真と向かい合って、結構考え込んでいたようだ。

 反射的に答えはしたものの、早紀はまだパジャマのままだった。

 慌ててドアの向こうに、ちょっと待ってと言おうとした彼女だったが。

 遅かった。

 ドアが、開いてしまったのだ。

 あわわわ。

 早紀は、ベッドの上に座ったまま、お客を迎えるハメになってしまったのだ。

 そして。

 最悪なことに、来訪者は──真理だった。

 あ。

 昨日の件もある上に、パジャマのままとは、気まずいにもほどがある。

 最悪な状況に、早紀が小さくなっていると。

 真理が、一人ではないのに気づいた。

 彼の後ろに、誰かいる。

 修平かと思ったが、もっと小さい。

 立っていたのは、真っ黒い女性。

 早紀の第一印象は──それ。

 真理は、ベッドの上の情けない彼女を見るや、ため息をつく。

「お前は…」

 彼の呟いた一言で、十分だった。

 痛いほど、早紀もそれに打ちのめされている。

 初対面の相手に、いきなりパジャマで会うなんて、と。

 だが、その女性は、大きな瞳で部屋の中を見回す動きをした。

「ところで…『その方』は、何処に?」

 幸か不幸か。

 早紀は、彼女に認識さえしてもらえなかったのだった。
< 86 / 273 >

この作品をシェア

pagetop