極東4th
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 情けないパジャマ姿から、着替えを終えた早紀は、枕元をじっとみた。

 母の写真から少し離れたところに、リボンを置いていたのだ。

 夢の中に持ち込んだとは言え、実際にリボンを巻いたまま寝ていたわけではない。

 どうしよう。

 と、思いながらも、早紀はリボンに手を伸ばしていた。

 ただの細長い布に感じるが、それを自分の左の髪に近づけると。

 しゅるり。

 生き物のように動き始め、リボンは早紀の髪を編み始めるのだ。

 伊瀬のくれた、海のリボン。

 そして。

 もしかしたら、自分の中の『水』と、何か関係があるのかもしれない。

 けれど、父親の記憶なんかない。

 聞いた記憶もない。

 問題は。

 この事を、鎧以外に話せないことだ。

 あの鎧の男は、早紀が何の種族であれ、興味もないし頓着もしない。

 だが、魔族にとって、他の種族は敵なのだ。

 そして、更に早紀の味方にならないものが増えた。

 タミと呼ばれる魔女だ。

 あの黒々しい彼女なら、ホウキに乗って空を飛んでいても、とても似合うだろう。

 いまどき、ホウキに乗る魔女がいるのかどうか、早紀は知らないのだが。

 真理のお相手になるということは、家柄もしっかりしているのだろう。

 幸い。

 彼女も、上手に早紀を見失ってくれる人のようだ。

 それを生かしながら、逃げるしかない。

 早紀が、そんな消極的理論に走っていた時。

 またも、部屋がノックされた。

 うう。

 もう、真理とタミでおなかいっぱいな上に、彼女には考えなければならないこともあるというのに。

「は…い」

 歯切れの悪い声で、返事をする。

「タミです…入ってもいいかしら?」

 あう。

 訪問者は──おなかいっぱいの片割れだった。
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