極東4th
 何の用だろう。

 何故か早紀の部屋で、お茶の準備が始まった。

 来たばかりの彼女は、それが自分の権利であるかのように、使用人を使っている。

 さすがは、良い家柄だ。

 未だ早紀は、彼らに何かを頼むことさえ、ほとんど出来ないでいるというのに。

 まあ。

 早紀の能力上、使用人たちも彼女の存在を、うすらぼんやりとしか認識していないのかもしれないが。

 お茶の準備が終わるまで、何の話も始まらない。

 ソファに、向かいあって座っていながら、早紀はいたたまれない時間を過ごさなければならないのだ。

 しかし、タミは大きな目で、まばたきもほとんどしないまま、彼女をじっと見つめ続けている。

 睨まれている気がして、しょうがない。

 だが、その凝視っぷりは、どこかで覚えがあるものだった。

 あ。

 零子だ。

 学校で、彼女が自分を見る時も、そんな目だったのだ。

 まばたきの隙に、早紀が消えてしまうとでも思って──ああ、なるほど。

 納得した。

 タミも、彼女を見失うまいとしているのだ。

「しゃべってくれないかしら」

 使用人たちが下がった後、最初にタミが言ったのは、そんな言葉だった。

 な、何を?

 早紀は、たじろいだ。

 ちょっとだけ、ギクリとしていた。

 自分の中にある、何かを白状しろと言われた気がしたのだ。

 しかし、その秘密を共有しているのは、早紀と鎧の男だけ。

 彼女が、知っているはずがない。

「何でもいいから、声を出して…もう、ぼんやりとしか見えてないの」

 その声には、悔しさが混じっている気がした。

 早紀を見失うのは、屈辱なのだろうか。

「は、はい」

 何でもいいと言われたので、とりあえず返事を返す。

 すると、黒く大きな目が、はっきりと早紀を真ん中に映した。

 ほぉっと、タミは安堵の吐息をつく。

「まるで…海族といる気分だわ」

 その、吐息の影から呟かれた言葉は──早紀の鼓動を止めるかと思った。
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