極東4th
 レコーダーが欲しい。

 早紀は、講義を受ける生徒となりながら、切実にそんなことを思っていた。

 タミの語る言葉は、理解できないものが8割だったのだ。

 冷静な口調ではあるが、彼女の戦闘に対する蛇口は、締められることなくダダ漏れになっている。

 しかも、難しい専門用語がバンバン飛び出すからたまらない。

 それは何? どういう意味?

 質問を挟む隙間さえ、見つけられないのだ。

 しょうがなく、分かる部分だけを、早紀は拾い集めた。

 力のベクトルは、x軸とy軸共に魔族と天族は真反対。

 海族は、x軸は魔に近く、y軸が天に近い。

 xとyの値が、真逆の海族もいる。

 説明の仕方はもっと違ったが、早紀は語られる言葉を、何とか頭の中でグラフに直すことが出来たのだ。

 海族の、特殊なベクトルのゆえに。

「海族は生まれつき、天族にしか効かない力を持つものと、魔族にしか効かない力を持つものに別れてしまったの」

 言葉の糸が、早紀のグラフの上をすべり落ちていく。

 ということは、海族とは言っても、実質的な力は魔寄りか天寄りということだ。

 伊瀬は、どっちだったのだろう。

 早紀を傷つけなかったということは、魔寄りだったのだろうか。

「勿論…物理的な力技は、別ね」

 伊瀬のことを考えていた、彼女の頭の上を言葉が流れる。

 その言葉には、若干の軽蔑がこもっていた。

 野蛮な、とでも言いたげなのか。

「だから海族の戦士は、みな物理能力を鍛えるの…魔にも天にも対抗できるように」

 ああ。

 納得してしまう。

 彼の、素晴らしい身体を思い出してしまったのだ。

 極東魔族の四席の中で、あの身体に対抗できるのは、おそらく1stだけだろう。

「だからこそ…不思議なの」

 何か、鋭いものが、刺さったかと、思った。

 それが、タミの視線だと分かり、びくびくと彼女を見返した。

「天にも魔にも効く…能力があるなんて」

 鋭い目の中を、xとyの軸がうねる。

 早紀の力のベクトルに──その黒い手袋を伸ばそうというのか。
< 92 / 273 >

この作品をシェア

pagetop