極東4th
「しっ、知らない!」

 早紀は、即座に否定していた。

 ギクリとした気持ちを隠したいのもあったし、第一、本当に知らないのだ。

 この答えに関してだけは、嘘ではない。

 真理が、タミから何と聞いたのかは分からないが、この件については、深く突っ込まれたくなかった。

 否定に、間近で真理の表情が曇る。

「本当に…本当に、知らないの…見たこともないし、聞いたこともないし…」

 嘘じゃない、嘘じゃない。

 早紀は、必死に心の中で言い訳をした。

 だから早く、興味を失って。

 そして…早く離れて。

 ドアップで見るには、真理の顔は余りに心臓に悪い。

 綺麗だからこそ、たとえようもない迫力があるのだ。

 しかし、瞳は逃げたがる早紀を強く捕まえる。

「何故?」

 その声は、さっきまでとどこか違った。

 早紀を追い詰める音というよりも、純粋な疑問に近いものに感じたのだ。

 問いかけに引っ張られるように、彼女は真理の目を見てしまった。

「何故…父親のことを聞かなかった?」

 あれ?

 目を奪われたまま、早紀は質問に答えられなかった。

 あれ、どうしてだろう。

 確かに、早紀は小さかった。

 しかし、父親と母親がいて子供がいるという図式は、何となく頭にはあったような気がする。

 だから、一度くらい聞いていてもおかしくはなかった。

 もしかしたら、聞いたのに覚えてないのだろうか。

 頭の中をひっくり返してみるが、真理どころか自分自身さえ納得させる言葉は、見つかりそうにない。

 反射的に、彼女は真理の身体の影から、枕元を見ようとした。

 そこには、母親──の写真。

 自分によく似た、魔女らしくない女性が笑っている。

 見れば見るほど、記憶が曖昧になっていく。

 おかあさんと、どんな話をしたっけ。

 何て言ってたっけ。

 記憶の中の笑っている彼女との記憶が、どんどん白く霞んでいく気がした。
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