極東4th
「うーん」

 早紀は、夢の中でも首をひねっていた。

 自分が、健忘症にでもかかったんじゃないかと思えるほど、記憶が不鮮明になっていく気がしたのだ。

 父親どころか、母親さえちゃんと思い出せなくなってきたなんて。

「うるさいぞ」

 あっちを向いたり、こっちを向いたり。

 早紀の落ち着かない態度とうなり声に、嫌気がさしたのだろう。

 鎧の男が、その固いつま先で、早紀の尻をつつく。

「うひゃっ」

 変な声をあげて、早紀は飛びのいた。

「勝手にくつろぐな。ここは、お前の部屋じゃないんだぜ」

 鎧にしてみれば、彼女がとても呑気な姿に見えたのだろう。

 これでも、とてもとてもシリアスに、考え込んでいたというのに。

 そういえば。

 この鎧の男は、早紀の中から水を引っ張り出した。

 もしかしたら、他のものも引っ張り出せるんではないだろうか。

 彼女の、魂の契約者なのだから。

「あの…私の中に、魔力と水以外に…他に、何か、ない?」

 おそるおそる、彼に聞いてみる。

「力以外は、興味がない」

 しかし、即答で真っ二つにされるだけだった。

 あきらめざるを得ない現状に、早紀が遠い目をしかけた時。

「ああ…力か…そうか…そういう意味なら」

 ふと。

 男は、兜の中で何かを呟いた。

「水は、お前の力の折れ曲がってるところから出ているな」

 言葉がまとまったのか、男はさらりと意味不明なことを言ってのける。

 早紀は、自分の眉間がつながるほど、引き寄せなければならなかった。

 タミではないのだから、力の形だの水の出所だの言われても、さっぱり分かるはずなどないのだから。

 だが、せっかく教えてくれたのだから、せめてもう少し詳しく聞きだそうと、眉間のシワを伸ばして気を取り直した。

「それって…」

 男を見上げると。

 彼は、引っ張られるように、更に上を見上げていた。

 カタッ。

 鎧が震える。

 カタカタカタカタッ。

「おいでなすったぜ…」

 声は──歓喜に満ち溢れていた。
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