極東4th
 一度、蝕が始まると。

 早紀の魂は、鎧に乗っ取られたようになってしまう。

 前の戦いを思い出して、行きたくないと思っていても、だ。

 強制的に目覚めさせられた時、目の前の真理の部屋のドアを開けるのを、ためらうことさえできないのだ。

 ノックもなしに開けられるのは、この瞬間だけ。

 高揚する意識に、乗っ取られまいとしながらも、早紀は飛び起きた真理と向かいあうのだ。

 すぐに。

 彼も、蝕に向かいたくてしょうがないのだから、すぐに早紀の額を指でなぞるだろう。

 そう思っていた。

 しかし、あの真理が一瞬動きを止めたのだ。

「…もし怪我を負ったら、すぐに鎧に治してもらえ。その後の医者は雇ってある」

 頭に血が昇った状態の早紀は、彼の言う言葉の意味を、瞬間的に理解することは出来なかった。

 真理もまた、それだけ言いおくと、予備動作もなく早紀の契約印をなぞるのだ。

 あっと思った時には。

 自分を、真っ黒い霧が覆っていて。

 身体中が、自由のきかない金属に変化していくのだ。

 さっきの。

 ぽっかりと、身体の中心に穴が開いている気分だ。

 隙間風が、そこを吹き抜けていく気がするほど。

 さっきの言葉は。

 上手に、考えられるはずがない。

 真理が──入ってきた。

 がらんどうの自分の内側を、生々しく埋めていく。

 その瞬間の気色の悪さと、隙間がなくなる充足感。

 相反する二つの感覚を、早紀は同時に味わわされるのだ。

 そうすると、前の倍はさらに頭に血が昇る気がした。

 鎧の感情と、真理の感情の両方が絡むせいだろう。

 二人とも、戦いたくて戦いたくてしょうがないのだ。

 さっき。

 だが、やはり考えられるはずなどなかった。

 身体の支配権を奪った真理が──空に向かって飛び出してしまったのだから。

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