青い空の下で
この男の腕から降りることも出来ず,
何もいえない私は,
きっと顔中真っ赤になっていただろう。

私の鼓動もすごい速さであることも,
きっとこの男に気づかれている。

そう思うと,
さらに自分では
どうしようもなく
ドキドキ感が高まってしまい,
掌は汗でじっとりなっていた。



「そんなのドキドキしてたら,
心臓が止まってしまいますよ。
体の力を抜いて,
僕に身体を預けてください。
その方が抱える方も楽ですから・・」

と男が優しく声をかけてきた。

「すみません。重いでしょう。
ご迷惑をかけてしまいました。」

私は
この状況をどうすることもできず,
この男に頼るしかなかった。


「いいえ,あれからなかなか
散歩でもお会いできずに,
一人さびしく歩いていたんですよ。
どうかされたのですか?」


私は答えに悩んだ。

あなたに会いたくなかったから・・・
と言えたらどんなに楽だろうか。

あなたと話すとある人を思い出して,
心が乱れるから・・・と言えたらどんなに楽だろうか。

そんな言葉が頭の中でいっぱいになった。



「僕と会うのが嫌でしたか・・・・」



二人の間に流れた沈黙を破ったのは,

男の方だった。



私は,
私の心を見透かしたように
発せられた男の言葉に,
何も言えなくなった。


しかし,
次の瞬間,
私の発した言葉に自分自身も驚いた。


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