青い空の下で
車はしばらくして,
知らない家の敷地に入って止まった。

男は
「ちょっとまっててください。」
というと,家に入っていった。

後ろから
若い男が別の車に乗って横に止まった。

私は,
きつい視線を感じ外に眼をやると,
若い男は露骨に嫌な顔をして家の中に入っていった。



私はモモをなでながら周りを見回した。
きっとあの若い男と二人で住んでいるのだろう。

平屋建てのその家は,
周りをうっそうとした木々に囲まれ,
ここに連れてこられないと,
絶対に周りからは一軒家があるとは思えないような場所だった。

海から近いせいか,
時より潮の香りが
風にのって運ばれてくる。

夜は,静寂に包まれた中に,
波の音さえも耳に聞こえてくるような
そんな気がした。



すると,玄関から男が救急箱を抱えてやってきた。

私の傍らに座ると,
左の足首に湿布をはり,
包帯で固定した。

あまりにもその手さばきが自然で,
手馴れた感じがした。

もしかしたら
医療関係の仕事をしているのだろうか,
とふと思った。

しかし,
もしそんな仕事をしているのなら,
午前中のこんな時間に
海辺で若い男とkissなんてしてないか
とも思いなおした。


「本当に,ありがとうございます。
 何から何まで・・・」

そこまで言って,
私はこの男の名前さえも知らないことに気づいた。

そう,
この男のことなんて,
何一つ知らない。

真人と同じ声音を持っている
ことしか知らなかった。



「これで,だいぶマシになったでしょう。
 砂浜にあんな高いハイヒールできたら,足首をひねるのは当然ですよ。気をつけてください。」

そういって私に車のkeyを返すと,

「帰り道は分かりますよね。
 気をつけて。」

と,そのまま家へ戻っていった。


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