青い空の下で
「えっ。」 



私はひとり車に取り残されて,
この状況からしばらく抜け出せなかった。

ようやく
自分の置かれた立場を理解したとき,
さっき,すこし期待した自分が
とても可笑しくなった。



そうよね。
相手はどう見ても,私より年下。
何を期待してるんだか・・・

馬鹿みたいね。
ただ,足をくじいた
どうしようもない女を助けただけ。

困っている人なら,
誰でも優しくするのが普通じゃない・・・



そう,自分自身に自嘲しながら,
運転席に移ると,
エンジンをかけて車を道に出した。

カーステから
懐かしい映画音楽が流れてきていた。

そのメロディーを聴きながら,
また涙が溢れてきた。

自分自身の情けなさと,
「好きになりそうだったから・・・」
と馬鹿正直に答えた間抜けさと

いい年した自分が
少しでも心ときめかせたことの
恥ずかしさと,

色んな思いが交錯して
また涙が溢れてきた。

目の前の風景が分からなくなって,
運転をすることさえも無理になり,
私は車を止めると,
ハンドルに顔をうずめて,
思いっきり泣いた。

誰にはばかることもなく,
声をあげて泣いた。

こんなに泣いたのはいつぶりだったろうか。

そんなことさえも,
忘れてしまうくらい,
相当前だった。




大きく息をして
私は心を落ち着かせた。

再びハンドルを握りなおすと,
家に向かって車を進めた。

もう二度と,
あの男と会うこともないはず・・・
そう思い,自分を奮い起こした。

一度,思いっきり泣いてしまえば,
これもきっと苦い思い出として,
しばらくすれば忘れられる,

そう思った。

どんな素性かも知らない男に
振り回された自分自身を
馬鹿馬鹿しく思えた。



しかし,
心の奥底から湧き上がったように
表れた忘れかけた感情を
もう一度封印するのは

そう易々といくものではなかった。


< 17 / 71 >

この作品をシェア

pagetop