青い空の下で
第6話

それから,
私はしばらく深く物事を考えず,
ただひたすらに毎日の雑務に
淡々とこなすことで
あの男のことを考える隙を
自分に与えないように過ごした。

いつもはしない換気扇の掃除や窓拭き,
さらには箪笥の中に
しまってある服までもアイロンをかけて,
自分にボーっとする時間を
与えないようにしてきた。

しかし,
こんなに狭い借家をあちこち磨きあげても,ふと空いてしまう時間が私を追い込んだ。


あの男の声音と
真人との思い出が交錯して,
私の心を激しく乱し,
情緒不安定に陥いらせた。

飲んではいけない
アルコールの力さえを借りないと
私は眠れなくなってしまっていた。

こんなことで
自分がここまで追い込まれるとは
思っていなかった。

そう,
私は
もうきっと
あの男に心奪われてしまっていたのかもしれない。


だから

あんなに素っ気無く返されたことに
傷ついて,こんなにあたふたしているのだ。

まるで,

初恋に敗れた中学生のように・・・

どうしようもなく
自分の気持ちの整理がつかないのだ。


そんな堂々巡りの想いを
数日続けいた私は,
ふと思い立って,
また高速船に乗っていた。

久しぶりの波の心地よさに,
私は数日眠れなかったせいもあり,
席につくとすぐに眠りに落ちた。


「着きましたよ。」

私は,
聞き覚えのある声で起こされた。
島から南埠頭まで
一度も目を覚ますことなく,
熟睡していた。

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