青い空の下で
ゆっくりと目をあけると,
そこにはあの男が,
私の横の席に座りこちらを見ていた。

「よく眠っていましたね。」

そういうと,
にっこりと私に笑顔を見せた。


私は不意打ちの男の出現に
何も声をだすこともできず,
ただただその場を離れたかった。


「足の具合はいかがですか。
 もうここにいるということは,
 もういいのですね。
 今日は,どちらに・・・」

男はこちらの都合はお構いなしに,話しかけてくる。


私は窓際の席に座り,
その男を押しのけるわけにはいかず,ただまっすぐ前をみていた。


「もし,よかったら,
 今日はあなたに付き合ってもいいでしょうか。」 

突拍子のない言葉を男は発した。

私は,
あまりにも不躾な言葉にあきれて,
返す言葉もなかった。

二階席には
私たち二人しか残っておらず,
乗務員が不審そうにこちらを見ていた。


「降りますから・・・」

私は,その男に目も向けずに,
冷たく言うと,席を立った。

しかし男は私の腕をとると,
そのまま手を握ってきた。

私はその手を振り払おうとしたが,
あまりにも強い力にどうすることも出来なかった。

ここで声をあげて騒動を起こして,
知っている人や島の人に見られることは避けたかった。

私は,
サングラスをもう一度かけなおすと,
帽子を目深にかぶって,
そのまま男と高速船を降りた。

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