青い空の下で

「すみません。
 わたし,約束の時間がありますから・・・」


と男に言うと,
手を離そうと試みたが,
やはり男はこの手を離すつもりはなかったらしい。

しばらく黙っていた男が
「それなら,その約束が終わってから会ってくださいますか。僕との約束を守ってくれたら,手を離します。」 

と言い出した。


「困ります。
 あなたも用事があって,
 こちらに上がってきたのでしょう。
 お互いにそれぞれ予定もあるはずです。いい加減にしてください。大きな声をだしますよ。」

私は
これ以上は迷惑だと言わんばかりに,
男に言い放った。



一瞬さびしそうな顔をした男は,
そのまま私の手を離すと,
名刺大の紙を取り出し,
何かを書いて私の手に押し込むと

「連絡をください。」

と言って,
目の前から去っていった。


私は
その後姿からしばらく目を離せず,
見つめていた。

通行人の肩が当たり,
ふと我にかえると,
メモを握り締めたまま,
約束の場所まで足を速めた。

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