青い空の下で
「もったいないな。
 もう戻って来ないのか。
 こっちには・・・」

私は,黙ってうなずいた。

そう,もう少しこの手が大きくて,
この指がもう少し長かったら,


私には,
また別の人生の進み方も
あったかもしれない。

だけど,
今の私の生活が現実なんだから,
今更どうすることもできない。


「そうね,
 細々とどこかのバーや
 ライブハウスではじめようかなと
 思ったことがあるけど,
 現実には難しいわ。
 あっちじゃ一人だから。
 懐かしい気もするんだけどね。」

私は,渉へ向き直ると,そう告げた。


山下渉・・・
彼は,昔私がいっしょにライブをしていた年上の仲間の一人。

今も,天文館でライブハウスやピアノバーなどの店を展開しているやりての実業家になっている。

そして,私が唯一心も身体も許せる相手だった。

「ねえ,渉。
 私また全てから逃げたくなったの・・・」

「お前さ,
 また死にたくなったのか。
 だからここに来たのか・・・
 どうして,まず携帯でもいいから
 電話をよこさない。
 また堂々巡りの感情で,
 鬱状態に陥ったんじゃないか。」

渉はそういうと
大きくため息をついて,
私を後ろから抱きしめた。

私は,渉の腕の中で,
体の向きを変えると,
そのまま唇をあわした。

そして,
私たちは済崩し的にそのまま身体を求めた。

まるで,今,
ここに生きていることを
確かめ合うように,
お互いの存在を確かめ合うように,
身体をあわした。

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