青い空の下で
第9話

「真人なの?」

自分の動揺している
胸のうちを悟られないように,
私は,静かに声を発した。

後ろから抱きしめている腕は,
そうそう離れそうになく,

私の左手を
そのまま包み込むように持ち上げると

「結婚してないんだな・・・」

と低くつぶやいた。

「そんなわけないじゃない・・・」

「えっ」

彼の声にならない驚きが
背中から伝わってきた。

「結婚しているから,
 ここにいるのよ。
 一人だったらここにはいないわ。」

急に彼の腕の力が緩んだ。


私のことをほっといて,
さっさと何も言わずに
海外へ行ったのはあなたよ。

あの時,
どうして一言

「待っててほしい。」

と言ってくれなかったの。

どうして,私のことを捨てたの・・・

10年前に言えなかった
たくさんの醜い言葉が,
胸のずっと奥のほうから
溢れそうになって,
私は口を押さえて
その場にうずくまった。

遠くで,

海鳥の悲しい声が響いていた。
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