青い空の下で
「そうか・・・・」

彼はそういうと,私を離した。

私は彼の方を
最高の笑顔を作って振り返った。

目の前には最後に会ったあの日と,
全然変わらない真人の姿があった。

あの時よりも,
生気がみなぎり
格段にいい男になった気さえした。

その姿をみて,
内心ホッとしている自分がいた。

私をおいて,
夢にむかって未知の世界へ
進んでいった男が
こんないい男になって帰ってきた。
それはそれで悪い気はしないもの。

ただ,

「結婚してないんだ・・・。」

と聞いた真人が,
その後に明らかに落胆した様子に,
私は胸の奥をえぐられる痛みを感じた。

もしかして・・・という
確信のない淡い期待を抱く心に
ブレーキをしっかりとかけて口を開いた。

「元気そうでよかったわ。
 あれからもう10年ね。
 活躍は時々聞いていたわよ。
 夢が実現できてよかったわね。
 みんなの憧れよ。
 しばらく鹿児島にいるの?
 なら,みんなで久しぶりに会わない? 
 連絡をつけるから。
 そうそう,渉もいまや実業家として頑張ってるわ。
 渉に連絡してみるわね。
 そういえば,
 どうして種子島にいるの? 
 それがそういえば一番のなぞだわ。」

私は他に言いたいことを隠すために,
当たり障りのない同窓生としての
言葉を次々と口にして,
自分の真人への気持ちを
気づかれないように虚勢を張っていた。

いつの間にか,
尚登という男と美少年は,
私たちを残してこの場から去っていた。

< 33 / 71 >

この作品をシェア

pagetop