青い空の下で
「さっきの尚登は,
 俺の弟。
 母さんの方の姓を名乗ってるから,
 苗字がちがうんだ。
 日本に帰ってきたときには,
 会おうと言ってて。
 種子島にきたんだ。」

「そうだったの。
 最初,声をかけられた時に,
 びっくりしたわ。
 あまりにもあなたと
 声音が似ていたから。
 兄弟なら仕方ないわね・・・」

「音羽,
 まだやってるのか。音楽・・・」

まだ私のことを
音羽と呼ぶ真人の声が,
私の胸の奥をちくちくと刺して,
私の心を揺り動かして,
真人への想いが溢れそうになる。

私は真人の横顔を見つめながら答えた。

「家で弾いてるわ。
 表舞台には出ないけど・・・」


そう,あなたが私の目の前から
忽然といなくなってから,
しばらく私は音楽から逃げた。

自暴自棄になっている私を
救ってくれたのは,渉だった。

家のために親のために結婚したときに,救ってくれたのも渉だった。

そのことを真人が知ったら,
どうするだろう。

このことは,渉も私以外知らないこと。

きっと真人も知ることはないのに,
どうしてそんなことを考えるんだろう。

私は,視線を真人からはずすことが出来なかった。

ふいに真人は私の方を向くと,

「帰ろう・・・」

と,つぶやいた。
私は慌てて視線をそらすと,
その場から立ち上がった。

その時,
首からかけているネックレスが隠していた服の間から零れ落ちてきた。

あっ。と思った時には,もう遅かった。

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