青い空の下で
第13話
私は静かに鍵盤の上に指をおいて,
最初のAの音をだした。

「 kiss in the rain 」

もう記憶のずっと奥底にしまいこんで,
忘れていると思っていたメロディーが
不思議なほど,一音の間違いもなく,
私の指を通して空に解き放された。

ここで,真人のギターが入ってきて,
私の右手から渡される主旋律を
悲しいほど繊細な音で
爪弾きはじめる。
そして,
ベースの渉が重鎮な音でこの曲を支える。

そう10月の霧雨の中で,

初めて真人とkissをした。
優しい雨が降り続く中で,
何度もお互いの気持ちを確かめ合うようなkissだった。

紅葉の始まった森で,
ひと際鮮やかな朱色に染まった紅葉の並木の中で


忘れられないkissだった。

そんな想いをこめて作った曲が
演奏されたのは,
たった一度。

最後のライブだった。

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