青い空の下で

まだ誰もきていない
ライブ会場に入った私は,
一人ピアノに向かうと,
今日は演奏することのない
自分の曲を弾いた。


「音羽,変わらないな。
 響きは昔のままだ・・・」


真人が,
グランドピアノの向こう側に
立っていた。


「そう。
 だいぶ指は回らなくなってきてるわ。
 とうとう・・・
 この手がもう少し大きかったら,
 指がもう少し長かったら
 何度思ったかしら。」

私は自分の両手を
目の前に広げて
言葉を続けようとした。

「そしたら,私,
 あなたを追いかけていたわね。
 きっと。」

だけど,その思いは言葉にしなかった。
いくら思っても過去のことだから。


私は真人の視線を感じて,
両手から真人へ視線を移した。

何も言葉を交わさないまま,
私たちは視線を絡ませた。

私の脳裏には,
真人の思い出が次から次に,
走馬灯のように溢れていた。
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