青い空の下で
「それでは,今夜 最高のセッションをしてくれた二人を紹介します。
ベース 山下 渉。今回のライブをセッティングしてくれた大切な先輩です。
そして,ピアノとボーカル 音羽・・・・・・。
この日のために10年ぶりにステージに立ってくれました。」

そして真人は私の方をしっかりと向くと,こう言葉を続けた。

「俺が心から一番愛している人です。」


会場からは再び拍手が沸き立った。
私は真人を見つめたまま微動だにできなかった。
すると,真人は渉と軽くハグした後,
私に近づいてくると,同じようにハグして 

「音羽,愛してる。」

と耳元で囁いた。

私は抑えていた涙が次から次に溢れてきて,その場に立っていることができず,
慌ててステージから降りると,楽屋に逃げ込んだ。

卑怯だわ。
今頃,どうしてそんなことを言うの。
どうしてあの時に,黙っていなくなったの。
あんなことステージ上で言ったからって
何も変わらないじゃない。

私の胸のうちは,真人へのひどい言葉で渦を巻いていた。
そして再会して手の届くところに真人がいる方が,
どうしようもなく辛いという現実を思い知らされた。

こんなに真人を求めているのに,そこに真人がいるのに,
私は手を伸ばせばつかめる真人をつかめない,
真人を掴んではいけない,自分の位置に,もう耐えられなかった。

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