青い空の下で
いつもの海岸のベンチに腰を下ろし,モモに水を飲ましていた時,
尚登さんが当たり前のように横に座った。
「音羽さん。あれから真人と会いましたか?」
私は頭の中で「あれから」の意味を考えていた。

「沖が浜田で会った日から,それともライブの会った日?」
「ライブですか?」

尚登さんの驚きの声を聞いて,
あれからの意味が沖が浜田で真人と10年ぶりの再会を迎えた日だと知った。

「そうね。あれからライブで一緒に演奏をしたわ。それだけよ。
 真人からどれだけ聞いているかなんて詮索はしないけど,
 もう私と真人とは何も関係はないわ。だからあなたたちとも何も関係がないの。
 もう私に声をかけるのはやめて欲しい。あの瀬里亜くんにも言っといて。」

私はその場を早く離れてしまいたかった。
ようやく真人への想いを封印していたのに,
声音の似ている尚登の声を聞いていたくなかった。

それなのに・・・・・・

私は,背中から抱きしめる腕の中にいた。

「真人と何もないのなら,俺を見てほしい。
 前に『好きになってしまいそうだから。』って言ったじゃないか。」

「そんな声で私の耳元で囁かないで・・・・
 私は結婚もしてるわ。あなたのことなんて何とも思ってないから。
 この間の言葉は忘れて。」

腕を振りほどいて,私は駆け出した。
真人への想いをこれ以上,誰も揺り動かしては欲しくなかった。

それなのに,次の瞬間,

私の唇は尚登さんの唇にふさがれた。

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